6ぴきめ(2002年10月)

まねき猫がであった 今月のおもろい人

東野健一さん



40(さい)会社員(かいしゃいん)から絵描(えか)きになった東野(ひがしの)健一(けんいち)さんは、インドのポト(紙芝居(かみしばい))の制作(せいさく)上演(じょうえん)もされています。神戸市内(こうべしない)にあるアトリエでお(はなし)をうかがいました。(文責(ぶんせき): 編集部(へんしゅうぶ)

40(さい)でそれまで(はたら)いていた会社(かいしゃ)()めて、インドにポトを()()ったんです。そのときは絵描(えか)きになろうとは(おも)ってたけど、ポトゥア(絵巻(えまき)物師(ものし))になろうとは(おも)ってなかった。

 2年後(ねんご)画廊(がろう)ではじめての個展(こてん)(ひら)いてね、1週間(しゅうかん)(すわ)ってるわけですよ。でもなんかおもろないねん。それでもっと自分(じぶん)らしい表現(ひょうげん)方法(ほうほう)(さぐ)(はじ)めて、ポトをやってみようと(おも)った。人前(ひとまえ)()()せてしゃべるなんてしたことなかったから結構(けっこう)勇気(ゆうき)がいったけど、あるお(てら)5日間泊(いつかかんとま)()んで毎日(まいにち)紙芝居(かみしばい)をやったんよ。()(いた)くなるし、「もうやりたくない! ()ずかしい!」という(かん)じで((わらい))。でも、3日目(みっかめ)()わって片付(かたづ)けてたら、おばあちゃんがお(まご)さんと一緒(いっしょ)にやって()て、「(にい)ちゃん、その()()いたんか」と()ってぼくの()百円玉(ひゃくえんだま)を2(まい)()せてくれた。そのおばあちゃんは()()えへん(ひと)やってん。ものすごいうれしくてね、やってよかったと(おも)った。しばらくの(あいだ)、それがものすごい(はげ)みになりましたね。

 ぼくは(いま)55(さい)()どもの(ころ)はまだ物質的(ぶっしつてき)にも(めぐ)まれてないときやし、(もの)がないときにどう(あそ)ぶか、きょうだいからどう(うば)って()べるかとか((わらい))、いろいろやってきてるんよね。それってすごく大事(だいじ)部分(ぶぶん)で、(いま)(わか)(ひと)たちが経験(けいけん)しようと(おも)ってもできないことをぼくは経験(けいけん)してきている。その経験(けいけん)(とお)して(あたま)(からだ)(なか)()れてきたものが、(いま)のぼくをつくっているわけでしょう。そのぼくなりの美意識(びいしき)、きれいとかおもしろいと(おも)うこと、絶対(ぜったい)大事(だいじ)やと(おも)うことなんかをどんどん()っていくことが、あくまでも表現者(ひょうげんしゃ)としての自分(じぶん)仕事(しごと)やと(おも)う。

 だから、知識(ちしき)とか教養(きょうよう)でしゃべるのはやめようと(おも)ってる。自分(じぶん)経験(けいけん)で、自分(じぶん)(あし)(ある)いて、自分(じぶん)()()自分(じぶん)(はな)()いできたものをしゃべる。

 よくあるんですよ、ぼくが「インドでね、そのへんの(つち)をこうこねて(いえ)()てるんです」とか(はな)すでしょ。すると途中(とちゅう)で「それ()ってる! テレビで()た!」って()(ひと)がいる。ぼくの(はなし)自分(じぶん)()()しでウソかマコトか(さが)して、テレビの()()しにその(はなし)(はい)ってたら「それは(ただ)しい」と()うわけやね。自分(じぶん)()()しから(なに)()てこない場合(ばあい)不安(ふあん)になる。そこで拒絶(きょぜつ)して()ないようにするか、より興味(きょうみ)をもつかは(ひと)それぞれやけど。

 でも、ぼくもいろんな(ひと)()()っていくなかで、ものの見方(みかた)というのを(まな)んでいったんよね。ここにはよく(わか)()()るんやけど、それがものすごいうれしいね。ぼくが(おも)ってる美意識(びいしき)とか感受性(かんじゅせい)(ひと)(つた)えるといっても、いつも(おな)仲間(なかま)(つた)えててもしょうがないでしょ。全然(ぜんぜん)ぼくと生活(せいかつ)(ちが)うところで()きている、(とく)(わか)(ひと)たちに(つた)えていける()がもてたらいちばん(しあわ)せやね。それが、ぼくの表現(ひょうげん)方法(ほうほう)やから。


ひがしの・けんいち●1947(ねん)神戸(こうべ)市長田区(しながたく)()まれ。40のとき、インド・西(にし)ベンガル(しゅう)絵巻物(えまきもの)()せながら(はなし)をするポトゥアに出会(であ)う。現在(げんざい)国内外(こくないがい)でポトの上演(じょうえん)(おこ)ないつつ、()個展(こてん)(ねん)数回(すうかい)開催(かいさい)

 

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