7ひきめ(2002年11月)
特集・障がい者が社会で働くために

スーパーで(はたら)(エヌ)さん

インタビュー 西尾(にしお)英恵(はなえ)さん

  大阪市(おおさかし)北部(ほくぶ)地域(ちいき)就労(しゅうろう)支援(しえん)センター
就労(しゅうろう)支援(しえん)ワーカー)

(エヌ)さんの支援(しえん)事例(じれい) 

 知的(ちてき)障害(しょうがい)のある(エヌ)さん(男性(だんせい)・39(さい))は就労(しゅうろう)経験(けいけん)がトータルで20(ねん)(ちか)くある(かた)で、これまで支援(しえん)機関(きかん)とはまったく(かか)わりがなく就労(しゅうろう)されていました。(エヌ)さんは非常(ひじょう)(ひと)()きな(かた)で、また(なに)(たい)しても一生懸命(いっしょうけんめい)なんですね。「なんでもやるでー」って(かん)じで、就労(しゅうろう)意欲(いよく)もすごく()っておられるんです。(まえ)仕事(しごと)離職(りしょく)されてから職業(しょくぎょう)訓練(くんれんこう)(くんれんこう)受験(じゅけん)されて不合格(ふごうかく)になられたのをきっかけに、2001(ねん)(がつ)から就労(しゅうろう)支援(しえん)センターで支援(しえん)することになりました。

 たまたまそのちょっと(まえ)にセンターの近所(きんじょ)にスーパーができて、(ねら)いをつけていたんです。そこへ事業所(じぎょうしょ)開拓(かいたく)というかたちで、障がい者(しょうがいしゃ)就業(しゅうぎょう)準備(じゅんび)実習先(じっしゅうさき)として協力(きょうりょく)していただけるようお(ねが)いに()きました。そこは(あたら)しい店舗(てんぽ)ということもあって障がい者(しょうがいしゃ)()()れの経験(けいけん)がなかったんですが、最初(さいしょ)感触(かんしょく)としては非常(ひじょう)()かったです。本社(ほんしゃ)(かた)(まじ)えてお(はなし)をして、正式(せいしき)依頼文(いらいぶん)提出(ていしゅつ)した(あと)で、(エヌ)さんに「スーパーの仕事(しごと)があるんだけど、どう?」っていう(かん)じで意思(いし)確認(かくにん)をしました。(エヌ)さんの希望(きぼう)としては、(ちか)いところがいいというところと、(からだ)(うご)かす仕事(しごと)がいいということをお()きしていたので、まさにぴったりだと。

 そこで今度(こんど)(エヌ)さんと一緒(いっしょ)会社(かいしゃ)()って面接(めんせつ)をしました。そのとき一緒(いっしょ)店舗内(てんぽない)(まわ)ってみて、できる仕事(しごと)とできない仕事(しごと)(かんが)えていきました。障がい者(しょうがいしゃ)(はい)ることによってパートの(ひと)仕事(しごと)状況(じょうきょう)()わって、人間(にんげん)関係(かんけい)がギクシャクしてしまうことがあるんですよ。そういうことは()けたいですから、(ほか)(ひと)がやっている仕事(しごと)隙間(すきま)にあって、でもやらないといけない仕事(しごと)をリストアップして、会社(かいしゃ)のほうで再度(さいど)構築(こうちく)していただきました。清掃(せいそう)仕事(しごと)をすることになり、実習(じっしゅう)開始(かいし)

 

雇用(こよう)前提(ぜんてい)実習(じっしゅう)にきりかえ 

 当初(とうしょ)実習(じっしゅう)一定期間(いっていきかん)区切(くぎ)ることにしていました。このスーパーに(かん)しては、雇用(こよう)前提(ぜんてい)ではなくグループ実習先(じっしゅうさき)ということで開拓(かいたく)(すす)めていたので、最初(さいしょ)時点(じてん)雇用(こよう)という(はなし)をしていなかったんです。ところが(エヌ)さんが一生懸命(いっしょうけんめい)がんばって仕事(しごと)をする(ひと)なので、お(みせ)としても(かれ)のがんばりに(こた)えないといけないだろうということで、その実習(じっしゅう)()わる時点(じてん)店舗側(てんぽがわ)から雇用(こよう)(はなし)()ちかけてこられたんです。(わたし)としても非常(ひじょう)にうれしくてね。

ところが、本社(ほんしゃ)人事(じんじ)のほうから、清掃(せいそう)だけの雇用(こよう)はしていないので、雇用(こよう)(かんが)えるのであればもう(すこ)職域(しょくいき)拡大(かくだい)してもらいたいという提案(ていあん)(はい)りました。店長(てんちょう)さんは、「(エヌ)さんなら仕事(しごと)()えてもこなせる。お(みせ)責任(せきにん)をもって指導(しどう)するから」と()ってくださり、今度(こんど)雇用(こよう)前提(ぜんてい)実習(じっしゅう)となりました。

 ただ(わたし)としては、まったくの無給(むきゅう)実習(じっしゅう)長期間(ちょうきかん)(はたら)くことに疑問(ぎもん)がありました。(エヌ)さん自身(じしん)はお(かね)がどうこうというよりも、いつまでこの(みせ)(はたら)けるのかということのほうがすごく大切(たいせつ)で、実習(じっしゅう)期間(きかん)見通(みとお)しが()たないことですごく不安(ふあん)になられていました。それなら、実習(じっしゅう)長引(ながび)いてもその(さき)目標(もくひょう)があるほうがご本人(ほんにん)にとってはいいかなとも(おも)ったんです。ご本人(ほんにん)さんとご家族(かぞく)からも(つづ)けていきたいという希望(きぼう)があったので、雇用(こよう)前提(ぜんてい)実習(じっしゅう)にきりかえて、再度(さいど)一定期間(いっていきかん)(おこな)っています。

 雇用(こよう)前提(ぜんてい)実習(じっしゅう)(はい)ってからは、清掃(せいそう)(くわ)えて陳列(ちんれつ)仕事(しごと)をやっています。(エヌ)さんは一度(いちど)指示(しじ)したことはきっちり(おぼ)えているし、()れてくると「惣菜(そうざい)(すく)なくなってるよ」と(ぎゃく)社員(しゃいん)さんに(こえ)をかけたりして、非常(ひじょう)積極的(せっきょくてき)()()まれたんです。

 

職場(しょくば)での関係(かんけい)づくり 

 いちばん()かったのは、会社側(かいしゃがわ)(かれ)仕事(しごと)(まか)せてくれたことです。(エヌ)さんの()()以外(いがい)のところが(よご)れていると、(エヌ)さんは社員(しゃいん)さんに「あそこ(よご)れているけど掃除(そうじ)しに()っていい?」って()きはるんです。そういうとき、「そこは(きみ)()()ちじゃないからしなくていいよ」と()われてしまう場合(ばあい)(おお)いんですけど、そこの社員(しゃいん)さんは「(エヌ)さんがそう()ってくれるのはすごいことや」と()わはるんですね。そこまでお(みせ)のことが()きで、きれいにしようと(おも)ってくれている。その気持(きも)ちを大切(たいせつ)にしたいということで(まか)せてくださる。(まか)されると本人(ほんにん)はすごく(たよ)りにされてるという気持(きも)ちになるわけです。自分(じぶん)のやらないといけない仕事(しごと)非常(ひじょう)明確(めいかく)になるので、意欲(いよく)維持(いじ)にもつながる。そこは会社(かいしゃ)(エヌ)さん自身(じしん)人間性(にんげんせい)()てくださったので、非常(ひじょう)良好(りょうこう)関係(かんけい)がつくれたんです。

 もちろんすべてが順調(じゅんちょう)だったわけではなくて、トラブルや危機(きき)もありました。でも基本的(きほんてき)には(エヌ)さんの努力(どりょく)会社(かいしゃ)評価(ひょうか)してくれていたので、こちらも解雇(かいこ)回避(かいひ)努力(どりょく)(もと)めるなどの対応(たいおう)をし、現在(げんざい)順調(じゅんちょう)(はたら)いておられます。

 

障がい者(しょうがいしゃ)がいてあたりまえ 

 会社(かいしゃ)(がわ)も、()れてくるとなかなか本人(ほんにん)さんに(たい)して()()える評価(ひょうか)をしなくなりますよね。(とく)就職(しゅうしょく)して2、3(ねん)というのがひとつの山場(やまば)で、(はたら)いている(ひと)にとってはすごく()れる時期(じき)ではあるみたいです。自分(じぶん)必要(ひつよう)とされてるのかどうかわからなくなる。だからなるべく評価(ひょうか)をわかりやすく(つた)えてもらったほうがいいというのはあります。それと、3(ねん)もやればもっとステップアップしてほしいという要求(ようきゅう)()てくる。ところが結構(けっこう)みなさんせいいっぱいのところで(いま)時点(じてん)(たも)っておられる(かた)(おお)いので、そこでステップアップしろと()われることですごくしんどくなってしまうことがあるんです。そこはセンターが(あいだ)(はい)って調整(ちょうせい)をしながら、ステップアップするにしても徐々(じょじょ)にやっていく。それでもやっぱり離職(りしょく)される(ひと)もいらっしゃいますので、そこは(むずか)しいんですけどね。

 もちろん離職(りしょく)がいけないことではないんです。それなりの理由(りゆう)があったり、本人(ほんにん)さんが納得(なっとく)して()めるぶんには問題(もんだい)ないと(おも)います。本人(ほんにん)さんは(はたら)きたいと(おも)ってるのに理不尽(りふじん)理由(りゆう)をつけて()めさせられるということになれば、きちんと会社(かいしゃ)(はなし)をして雇用(こよう)(まも)っていかないといけないですけど、職場(しょくば)環境(かんきょう)人間関係(にんげんかんけい)(わる)本人(ほんにん)さんはいやだと(おも)っているのに、支援者(しえんしゃ)本人(ほんにん)意思(いし)無視(むし)して無理(むり)やり(つづ)けさせようとするのはおかしいですよね。

 職場(しょくば)では人間(にんげん)関係(かんけい)問題(もんだい)はいろいろありますけど、(わたし)はいつも「(ほか)社員(しゃいん)さんやパートの(かた)(おな)じように(せっ)してください」と()っています。人間(にんげん)関係(かんけい)問題(もんだい)一般(いっぱん)社会(しゃかい)であればふつうにあることですよね。でもやっぱり障がい者(しょうがいしゃ)ということで特別(とくべつ)(あつか)いされることもあるんです。それってイメージの問題(もんだい)なんですよね。最初(さいしょ)にかかわった障がい者(しょうがいしゃ)(しょうがいしゃ)イメージって強烈(きょうれつ)らしくって、たとえばその(ひと)がパニックを()こす(ひと)だったら、障がい者は(しょうがいしゃ)みんなパニックを()こすとか(あば)れるとか、自閉(じへい)傾向(けいこう)(つよ)(ひと)だったら障がい者(しょうがいしゃ)はしゃべらないとか、すごい固定観念(こていかんねん)(かんねん)。ほんとは障がい者でも(しょうがいしゃ)10(にん)いたら10(にん)とも全然(ぜんぜん)ちがうじゃないですか。でもそういうことは(くち)()ってもわからないのでね。それはいっしょに(はたら)いて(せっ)しているなかで見方(みかた)()わっていく(ひと)もいるし、()わらない(ひと)もいます。最初は(さいしょ)見向(みむ)きもしなかったパートのおばちゃんが、(いま)はいちばんの仲良(なかよ)しになってたりね((わらい))。そういうことがあたりまえになる職場(しょくば)であり、社会(しゃかい)であってほしいなと(おも)いますね。

 

にしお・はなえ●大阪市(おおさかし)旭区(あさひく)()まれ(そだ)ち、現在(げんざい)旭区(あさひく)勤務(きんむ)障害(しょうがい)をもつ(あに)がいて、学校時代(がっこうじだい)同級生(どうきゅうせい)にも障害(しょうがい)をもつ(ひと)がいて、ともに(まな)び、(あそ)び、(そだ)ってきた。(いま)現在(げんざい)(はたら)きたいという障害(しょうがい)をもつ(ひと)(おも)いをちょっとでも実現(じつげん)できるようにお手伝(てつだ)いしたいと(おも)い、右往左往(うおうさおう)している。


                           
                        

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