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特集:クッキー工場をたずねて

はじめに

「私、暑い方が好きなんです」―小谷英梨子さんは、こともなげに語ります。

一生懸命働いている人たちの熱気と四台設置されているガスオーブンの熱で、かる〜く三〇℃を超えるクッキー工場。白の作業着・帽子・マスクを着けると、汗がにじみ出てきます。猛暑の七月末、ぷくぷくワールド・クッキー工場を訪れました。ぷくぷくの人気商品=クッキーはどんな人たちが、どんな風に作っているのでしょうか?

クッキー作業には約20人

ぷくぷくワールドでは、二十歳から五九歳までの利用者が通われています。その中には、内職やポスティング作業をされている人もいますが、約二〇人ほどがクッキー作業に関わっています。その中の一人、七年のキャリアがある小谷さんに聞きました。

工場では朝九時半から午後四時半まで昼食をはさんで六時間あまり、手作業での型抜き・オーブンでの焼きあげ作業・袋詰めなどをみんながローテーションを組んで作業を進めます。

小谷さんが、特に神経を使うのがオーブン作業だそうです。一七〇℃にもなるオーブン内は、上部と下部、奥と手前で微妙に温度が違うので、焼き色や堅さをチェックしながら、焼き時間やオーブン内の位置を変え、均一に焼き上げなければなりません。

こうした微妙な調整にこそ、おもしろみがあるそうで、「オーブン作業が一番好きな作業です」と小谷さんは言います。

小谷さんはご両親・二人の兄妹といっしょに生活していましたが、八年前に吹田市内のグループホームに入居しました。ホームでは、作業所の仲間でもある山本さん(ワールド)、大西さん(スマイル)と三人での共同生活。週に二日は家族とともに過ごすという生活です。「最初、寂しくなかった?」との質問には、「ぜんぜん」。仲間に囲まれて安心できる自立生活を送っているようです。

ぷくぷくクッキーのできるまで

クッキー作りの現場をのぞいてみましょう。

朝一番の仕事は、生地作り。各材料を計ってボールに入れてミキサーで練り上げます。生地作りは主にスタッフがやりますが、天気や室温で配合の割合や練り上げ時間を微妙に変えるそうです。約一〇年の試行錯誤や改良、工夫があって、現在のレシピが確立しました。「それでも夏は、高温のため生地がダレたり乾燥の早さが違ったりするので、特に気を遣う」とスタッフの栗本さんも語ります。

利用者それぞれ得意・不得意や適性があるので、できるだけ希望に沿うように担当や配置を決めて、一〇時頃から作業に入ります。

生地は、ソフトボールくらいの大きさに分けられ、それぞれパイローラーで伸ばして板状にします。みんな慣れた手つきで素早く伸ばしています。

次はいよいよ作業の中心である型抜き作業に入ります。「ミルク」は動物、「プレーン」は、星・月、「オレンジ」は、ハート・ダイヤなど、材料・種類によって型が決まっています。毎日バタバタと忙しい中ではありますが、それぞれ自分のペースで作業し、和気あいあいとした時間が流れます。

手作業での型抜きの後も、異物の混入がないかチェックします。衛生管理は厳重です。白衣・帽子・マスクの着用は当然として、作業場の入退室の際は、粘着ローラーをかけ合って、ほこりや髪の毛などの異物混入を防ぎます。

その後は、オーブンでの焼き上げです。一皿に約九〇個ほど生地を並べたトレーが七段入ったオーブンで、二〇分ほど焼きます。

型抜きしたクッキーがオーブンで焼き上がると、袋詰めの前にも異物チェック。数枚づつ手にとって、裏表を見てチェックします。袋詰めした後にも金属探知器で最終確認を行ってから出荷します。こうして一日みんなで作業をして、現在は、最大六〇〇袋/日くらいのクッキーを作っています。

小谷さんは、週に一〜二度は配達にも行きます。小売店や保育園・小学校などを回り納品します。「約二万五千円〜三万円のお給料のうち、毎月五千円をおこづかいにして、服とか買っている」そうです。


生地をつくっているところ


いよいよ型抜き。いろいろな型を使い、心をこめつつ、それぞれのペースで作業します


完成したクッキーは袋詰めされ、あちこちに届けられていきます

安全・安心 顔の見える関係を

ぷくぷくがクッキー作りを始めたのは、一九九〇年。専門家の助言も聞きながら手探りでの出発でした。

ぷくぷくクッキーは、材料にこだわり、余分なものは一切加えず、自然な素材のおいしさだけで勝負しようというものです。また、作り手と消費者相互の顔が見える関係を目指してきました。考え方を共有できる共同購入会・生協・労働組合・近隣の保育所などが最初の買い手となってくれました。

もちろん材料には自信を持っています。例えば砂糖は、サトウキビを絞った昔ながらの粗製糖を使い、小麦粉は国産小麦粉のみ。菜種油と胡麻は、今ではとても入手困難となりましたが国産にこだわって使用しています。

仕事をすることに自信を持ちながら

アクリルたわしを上手に編む(様々なところで販売中)広岡美菜子さんは、クッキー作りでは一〇年のベテランです。広岡さんが、働き続ける理由の一つは、「正月に甥や姪にお年玉をあげるのが楽しみ」だと言います。自分が働いて貯めたお金の中からあげるお年玉を甥や姪が喜んでくれるその姿を見るためだそうです。

小谷さんにしても、「働いて給料をもらう」という当たり前の日常が自立に向けた大きな自信となっているようです。

人にとって働くということは、単に給料を得るという以上の何かをもたらしているのだと感じます。

「ここで働く人それぞれに、いろんな想いを抱えています。でもみんなここでの作業には『仕事』という特別な想いを持って、自分から働いています。その姿を知ってほしいです」施設長・高田さんは語ります。

しかし、ここが全てではありません。ここだけで終わるのではなく、就労への取り組みも大切です。ぷくぷくワールドでは様々な実習にも取り組んでいます。

自立支援法が施行されて、利用者の方は利用料(+給食費)を払わなければならなくなりました。通所日数によっては、利用料と給食費で工賃を上回っている人もいます。これだけ働いても手元に残らないということです。

また、この利用料を利用者の皆さんから受け取っても施設の運営費収入は二割ほど下がっています。

利用する側も施設を運営する側も、関わるすべての人が、本当に大変な状況におかれています。

しかしそんな中でも、地域で当たり前に生きていくという、私たちの歩みは、後退することなく、今まで通り着実に進めていきたいと思っています。そしてこれまで通りおいしいクッキーを作ってみなさまにお届けしたいと思っています。

(2006/09/08)



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