特集:戦争で幸せになる子どもはいない! ―戦乱つづくイラク―
はじめに
サッカーが大好きなモハマド君(13歳)は、以前は病気一つしたことのない元気な少年でしたが、今彼の髪の毛は抜け落ち、1日に3度、合計5種類の薬が欠かせなくなっています。病名は白血病。血液の癌です。
モハマド君は、バグダッド北方、タールミーヤ村の出身です。イラク戦争でアメリカは劣化ウラン弾を使用してフセインの戦車や装甲車を破壊。これらをまとめてタールミーヤ村近くの川に棄てて、「戦車の墓場」としたのでした。
「面白かったので毎日戦車で遊びました。小学校の同級生もたくさん死にました」。こうモハマド君は振り返ります。また、父親のハビーブさん(40歳)も「悪い予感がしていた。戦車には近づくな、と息子には注意していたのだが…」と唇を噛みます。いっしょに遊んでいた15歳のいとこは戦車の部品を家に持って帰りコレクションしていましたが、昨年9月に突然白血病になり、1ヵ月半後に亡くなっています。
イラク戦争「終結」から3年経ち、「イラク人政権」も発足しましたが、イラクは未だ戦乱のさなかにあります。03年末に「イラクの子どもを救う会」を立ち上げて医療支援を続ける西谷文和さんは、「米軍の空爆とその後の掃討作戦によるイラク人死者は30万人。しかし衛生状態の悪化、栄養不良によってさらに多くの子ども達が今も殺され続けている」と訴えます。西谷さんにイラクの子ども達の今をお聞きしました。(編集部)
西谷文和さんプロフィール
1960年まれ、45歳。吹田市津雲台在住。1985年から吹田市役所に勤務。04年末に退職し、現在「イラクの子どもを救う会」代表。
これまでコソボやアフガンなどでアメリカの空爆や戦争被害者の実情などを取材してきた。アメリカによるイラク戦争直後からイラクを数回訪問。湾岸戦争、イラク戦争で大量に使用された劣化ウラン弾によるものと思われる被害の実体を取材。日本から人道支援を行う必要があると感じ、03年12月、イラクの子どもを救う会を設立した。
NGO活動と、フリージャーナリストとして戦争犯罪を告発するという、2つの面で活動を続けている。
機能しない病院
数年前からイラクの癌病棟は子どもで溢れていました。子どもは特に白血病が多く、小児癌の八割が白血病だと聞きました。
今はもうイラク国内の病院はほとんど機能していません。さらに米軍が劣化ウラン弾の影響によって癌患者が増加したことを認めたくないために、抗ガン剤の持ち込みを禁止しています。
モハマド君の両親は、イラク国内での治療を諦めヨルダン・アンマンの病院を受診することにしました。「何としても助けたかった。ありったけの金=三千ドルをかき集めたが、バグダッド〜アンマンの飛行機代、病院の治療費、滞在費で、その金はほとんど底をついた」と父親は語ります。母親は現在イラクに残り、他の子どもたちの面倒を見ています。
幸いモハマド君は、治療の効果があって小康状態を保っていますが、油断はできません。子どもの癌は進行が早いので時間的猶予もなく、日本に連れ帰って治療を続けさせたいと検討中です。
「ブッシュにこの子の姿を見せてやりたい。これがアメリカの正義なのか!」―モハマド君の両親は怒っています。モハマド君のケースは、本来ブッシュ大統領の戦争犯罪としてアメリカが謝罪し補償すべきですが、人命優先と、そうした世論を喚起するためには、まず日本で治療したほうがいいと思っています。
イラクの学校は今・・・
私は、イラクのビザが発給されず入国できないので、イラク人ジャーナリストから近況を送ってもらっています。彼の報告は次のようなものです。
学校もひどい状態が続いています。一応開校しているのですが、家から学校までの通学路がとても危険です。誘拐事件が頻発しています。保護者らが自警団を作って送り迎えをしていますが、それもできない地域では家に籠もっています。
サラ・アルディーン中学校の教師の証言です。「東バグダッドの大きなチェックポイントそばの学校にいたときは、銃弾から生徒たちを守るために、全ての窓を閉じて土のうを積んでいた。アメリカ占領軍とレジスタンスとの間で戦闘行為があったからだ。もしこのような状態があと二年続いたら、全ての学校は機能停止状態になると思う。教師たちの多くは賄賂を手にし、生徒は教師の言うことを聞かず、恐ろしい状態になるだろう。私たちはイラク政府に対してこの状態を改めるよう要求している。」
また別の教師は「自分の子どもを学校に行かせているか?」との質問に次のように答えています。「はい。しかし私は子どもを自分の手で送り届けています。そして妻が迎えに行きます。自動車爆弾、道路爆弾、誘拐などが起こるからです。数日前、アメリカ占領軍がモスル(バグダッドから北へ四〇〇`)で少女たちを乗せたスクールバスを止めました。占領軍は少女たちにベールを脱げと命令し、彼女たちの身体検査をしました。男性が女性の身体を触ることはイスラム社会では禁じられていることです。」
クラスター爆弾
クラスター爆弾の影響も甚大です。クラスター爆弾とは、二bくらいの親爆弾が空中で爆発して子爆弾が飛び散り、子爆弾が地上で爆発して中の鉄片が飛び散って人を殺傷するというものです。不発弾が地上に大量に残っています。子どもが無邪気にそれを拾って遊ぶうちに爆発してケガを負うという事故が後を絶ちません。
米軍はバクダッドでもファルージャでもクラスター爆弾を使用し、今もラマーディで使用しています。米軍の空爆は、ゲリラが潜んでいると思う所にクラスター爆弾を撃ち込みます。クラスター爆弾は、建物をそれほど壊すことなく人を殺す兵器です。一人のゲリラを殺すために周囲の人もまとめて殺す兵器で、化学兵器や劣化ウラン弾と共に無差別大量殺人兵器といって差し支えありません。
劣化ウラン弾を使うことは国連人権小委員会で禁止決議があがりましたが、米軍は湾岸戦争以来コソボでもアフガニスタンでも使い続けています。
殺人が断罪されない戦争
今も多くの民間人が戦闘の巻き添えで殺されています。問題なのは、兵士の殺人が罪に問われないことです。米軍は、自爆攻撃が起こると周辺の住民を「関係者だ」として軒並み家宅捜索し、逮捕します。その時の威嚇射撃や流れ弾に当たって死ぬ子どももいますし、少しでも抗議をしようものなら抵抗したとして射殺されることも少なくありません。
また、検問で止まらなかったとして銃殺されることもあります。こうした殺人行為が、軍事作戦上の戦闘行為として容認され、兵士は裁判にかけられることもなく、全く罰せられないのです。戦争ではこうした殺人や暴力に歯止めがかからないのです。
主要都市では、今も夜間外出禁止令(夜八時〜翌朝六時)が出されています。急病や急なお産でも朝まで待たなくてはなりません。この間に手遅れになったり、死産で子どもを死なせてしまったりという例があちこちで起こっています。米軍が設置する検問所では、夜間外出した者はゲリラとして射殺するという方針で、例外はありません。病人といえども検問所を通れないのです。
銃撃戦で殺されるよりも夜間外出禁止令によって死んでいく人数の方が圧倒的に多いのではないでしょうか。さらに言えば、薬があれば治っていたはずの患者や、上下水道が破壊されて衛生状態が悪いために下痢が流行って死んでいく子どもなど、「戦闘外」で殺されている人はカウントされません。
戦争被害による障がい者も増えています。劣化ウラン弾は放射能ですから、子どもや孫にまでその影響が及びます。仮にイラクに平和が訪れたとしても、ずっと後まで後遺症を抱えることになります。
イラクの人々は日本人に親近感と尊敬の念をもっていました。第二次世界大戦でアメリカに原爆を落とされ廃墟となりながらも、驚異的な経済復興を遂げたからです。しかしその親日感情は大きく変わりました。日本が軍隊を派兵し、米軍の協力をしているからです。私が接した限りイラク人にとって米軍は、戦乱をもたらした張本人であり、侵略者です。自衛隊は撤退を決めましたが、撤退途上に攻撃を受けないか心配です。
募金のお願い
戦争では、兵士の何十倍もの罪なき民間人が殺されていきます。アメリカが投下した劣化ウラン弾の放射能によって、今後長期間にわたってイラクの人々は傷つき、殺されていきます。同じ被爆国である日本から支援の手をさしのべましょう。募金は、子供用の手術道具や抗ガン剤などの薬にして、イラクの病院に届けます。
募金あて先
★銀行振込 三井住友銀行 吹田支店 普通口座番号 3712329/口座名義:イラクの子どもを救う会 西谷文和
★郵便振込 口座番号:00970-5-222501/口座名義:イラクの子どもを救う会 西谷文和
(2006/09/29)