力あるもの以外にも目を向ける取材を/石塚直人
NHK土曜ドラマ「魂萌え!」でテレビ初主演の女優・高畑淳子さんは、高校三年時代のクラスメートである。なぜか一緒にクラス委員もした。その彼女が載っている、と連れ合いに教わり、しばらく見てなかった「赤旗日曜版」(一〇月二九日号)を手に取った。
当時から才色兼備の彼女は、いくつも有名大学に合格しながら無名の短大の演劇科に入学、卒業後「青年座」に加わった。しかし長い間、芽が出ず、「金八先生」シリーズの養護教師役などで広く知られるようになったのは意外と新しい。本業の舞台では読売演劇大賞特別賞、菊田一夫演劇賞などを受け、今はバラエティー番組でも活躍している。
彼女のインタビュー記事は一〇〇行を超える長いもので、「年収一二万円」だった不遇時代にも触れ、筆致には温かさが感じられた。読みながら、自分が書いてもこうなるかな、などと想像するのは楽しかった。
掘り下げた取材が光る「赤旗」の紙面
「赤旗」を取り始めたのは二〇年ほど前、取材先で頼まれたからだ。共産党の主張にすべて賛同している訳ではないが、とくに第三世界や福祉、労働の問題で本格的な記事が多い。
この日の紙面では、トヨタ系部品工場の偽装請負について、 一六年にわたり偽装を続けてきた関連会社の社長に取材した特集が目を引いた。見開きの二ページで偽装の発端から撤退までの経過を詳報、工事明細票などの 資料も載せ、紙面のレイアウトも一般紙に劣らない。なぜこうした取材が一般紙でできないのか。
赤旗の日刊紙ページ数はほぼ一般紙と同じ。一般紙と明らかに違うのは、 記者クラブからの行政・警察発表記事が少ないことです。これなら記者は自分のテーマに集中できる。この連載でも紹介したことのある東京新聞の「特報部」も同じ仕組みだ。
福岡の中学生いじめ自殺で、文科省や教育委員会に「いじめ件数ゼロ」の報告が上がっていたことは、一般紙でも報道された。が、単にウソ報告を糾弾し「管理を徹底させる」という教育行政のコメントを垂れ流すだけでは、事態はさらに悪くなるだろう。クラスのいじめを認めることが自分と学校のマイナス評価にしかつながらない現状では、よほど勇気のある教員以外、ウソをつくしかない。上からの統制ではなく現場の創意を生かす仕組みこそが必要なのだが、そこまで見据えた報道は赤旗以外には少なかった。
一般紙の扱う取材対象は、政府や財界など力のあるものに偏りすぎている。彼らがどう考え、動いているかを 追うのは大切な仕事ではあるが、それだけでは未来への展望は見えてこない。
(2007/02/20)