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朝鮮半島・従軍慰安婦報道にみるジャーナリストの「目」/石塚直人

朝日新聞の元ソウル特派員で、朝鮮半島担当の編集委員・波佐場清さんが定年退職し、二月一七日、有志による激励会が大阪市内で開かれた。

気骨の先輩の定年退職に思う

波佐場さんは、大阪外大の朝鮮語科で私の七つ上の五期生である。仕事で韓国を訪れた八八年以来、何度かお会いしたが、おつきあいは年賀状のやりとり程度だった。「大阪本社に在籍し、東大出身でもない自分が、東京に伍して編集委員をやるのは大変なんだ」と猛烈な勢いで働く先輩を飲みに誘う勇気が、私になかったからだ。

朝鮮史学界の長老・姜在彦さんに始まる、多くの来賓があいさつした。金大中・前韓国大統領の拉致事件の真相をめぐるスクープなど、緻密でしかも情のこもった仕事をしてきた先輩と、これまでじっくり話す機会のなかったことを私は後悔した。辞書も参考書もほとんどない時代、同じように朝鮮語を学んだ間柄なのだから、もっと身近に接していろんなことを教わりたかった。

波佐場さんは、朝日の会員制「アスパラクラブ」で二〇〇四年一一月から昨年一二月まで「コリア閑話」というエッセーを連載し、先に東方出版から同名の本として発行された。硬軟とりまぜた内容だが、長く朝鮮半島を見つめてきたジャーナリストの「目」を感じさせる力作と思う。

大阪市立大の朴一教授は、最近の日本社会が北朝鮮問題をテコにタカ派傾向を強めていることを挙げ、「波佐場さんが辞めた後の朝日、そして朝鮮半島報道が心配だ」と述べた。その思いは参加者に共通していたようで、ひときわ拍手が大きくなった。

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三月に入り、従軍慰安婦問題をめぐる議論が急速に活発化してきた。米国下院外交委員会で元慰安婦の証言をもとに「日本に謝罪を求める」決議案が出されたのに対し、安倍首相が一日「強制性を裏付ける資料はない」と反論、論争に油を注いだ。

人間として真摯に歴史と向き合う態度

ニューヨーク・タイムズなど米国有力紙が安倍首相を真っ向から批判、日本を擁護してきた知日派も当惑を隠さない。一方、自民党内では、この問題で国の責任を認めた九三年の「河野談話」見直しを迫る声が続出、九日には民主党の二〇人も同じ趣旨の会を作った。

メディアの論調も割れ、政府に「(謝罪無用の理由を)きちんと説明せよ」と迫る読売と「歴史に向き合ってこそ品格ある国家」とする朝日が対立している。

多くの当事者の証言にもかかわらず、軍や政府機関がじかに関与した公文書が見つからないことで、なぜ「責任がない」と言えるのか、私には全く理解できない。それは何より、人間として卑怯なことだ。北朝鮮に「拉致」究明を迫るという功利的な側面だけから見ても、自分にだけ甘い態度は「国益を害する」ものだろう。

(2007/04/03)



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