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特集:サポートで広がる就労機会
スタッフ付き添いで本人も雇用者も安心

可能性広げるジョブライフサポーター登録派遣事業とは

「知らない人ばかりのところに足を踏み入れるのは勇気がいります。一人だと不安になるので、スタッフが付き添ってくれることは心強かった」

中津弥子さん(三八才)は、作業所に通いながら週三日高齢者福祉施設「ちくりんの里」(吹田市・春日)で洗濯の仕事に携わっています。月・水・金曜日の午後四時に出勤し、施設入居者の洗濯物を洗濯・乾燥し、各フロアーに届けます。

仕事を始めたのは、昨年八月。すいた障害者就業・生活支援センターからの求人情報提供に、真っ先に手を挙げたそうです。三人が面接を受け、中津さんとOさんが交代で週三日勤務を行うシフトが決まりました。時給は、七二〇円です。

通常なら面接後、すぐに勤務開始となるのですが、ジョブライフサポーター登録派遣事業(「JLS事業」と略)を活用し、まずサポーターが数日(ちくりんの里の場合は二日間)職場で実習し、作業内容などを確認し、どういう作業を、どういう手順で行うかなどを雇用者側と話し合いを重ねながら支援計画を立てます。場合によっては、働きやすいように手順を工夫したり、マニュアルを新たに作成します。中津さんには就労経験がありましたし、「ちくりんの里」側にも障がい者雇用の実績があり、連絡ノートの活用や洗濯機の使い方が記されたメモなど環境も整っていたため、スムーズなスタートとなりました。就労後、Oさんの都合で昨年一二月からは中津さんが週三日の勤務を行うことになりましたが、その分収入も増え、今は「他の仕事も増やしたい」と意欲満々です。

事業の仕組みと大きなメリット

「問題はいつか起こるかもしれない。その時は雇用者として言うべきことは伝えますが、ひとつひとつの関わりのなかで、その方のことを知り、変わってくることがあると考えています」―ちくりんの里施設長・片村元さんは、雇用した側の感想をこう語ります。

精神障がいについても、「私のなかに偏見がないとはいえませんが」、「認知症の方と同じように病によって抱えるしんどさを周囲の者が理解していたら、解決できることもたくさんあるのではないでしょうか」と語ってくれました。

また、ジョブライフサポーターについて「たいへん助かっている」理由として、「九〇名近くのスタッフを抱え、一人ひとりの心の変動に対する対応は難しい。やはり専門のサポーターがいることで安心して任せることができる」と高く評価します。

ジョブライフサポーター登録派遣事業は、大阪府独自の事業で、府下(政令市・中核市を除く)の施設や作業所等の在籍者で、就職を希望する障がい者に対して前述の様な広義のジョブコーチ支援を行います。二〇〇五年の四月にスタートしたこの事業は、遅々として進まない障がい者雇用を大きく前進させるため、NPO法人に委託し実施されています。

NPO法人大阪障害者自立生活協会JLS事業部・スーパーバイザー・三宅嘉美さんは、障がい者雇用の現状について、「大阪府下の養護学校高等部を卒業する障がい者は毎年四五〇名位いますが、就職するのは十五%程度。約七割の人が施設や作業所を進路先として選択しています。その後就職するのは一%程度」との数字を示します。

大きな実績と今後の課題

そうしたなか「この手法なら、障がい者の就労は大きく広がる可能性を感じた」と語るのが「すいた障害者就業・生活支援センター」の井上正治さんです。JLS事業の可能性について井上さんは、障がい当事者と日常的に接している施設や作業所のスタッフが登録型サポーターとして就労支援するので、@障がい特性や個人の性格、できること・できないことや生活実態全般等も比較的よくわかっており、実のある支援を行える、A支援した時だけの謝金支払いなので限られた予算を効率的に活用できる事業と評価します。

こうして始まったJLS事業によって二〇〇六年度は、府下で一六〇名の就労支援を行い、七一名が雇用されました。静岡県や福岡市、金沢市など同様の施策のある自治体は他にもありますが、大阪府の特徴は、登録型のサポーターを数多く採用している点です。大阪府のJLS事業では、雇用型のサポーター(七名)が職場開拓やコーディネートを行い、具体的な支援は登録型サポーターが行うという仕組みです。登録型サポーターは、NPO法人大阪障害者自立生活協会が開催するJLS養成講座を修了した者で、施設や作業所の利用者で就労をめざしている障がい当事者をサポートします。当事者とサポーターが作業所や施設で既に関わりがあるので、より適切な支援が行えます。

現在、八六名がジョブライフサポーターとして登録していますが、昨年度で稼働したのは約六割。また、就職を希望している障がい者の登録は四二三人(〇七年三月現在)。「本当は登録型のサポーターをもっと増やしたいし、フル稼働してもらいたい。でも、限られた予算の中で運営していますから、稼働すればするほど予算はパンクします。また、量の拡大に伴い、サポーターとしての質、支援の質をどう担保していくかも課題」(三宅さん)です。

一歩踏み出すきっかけに

「就労ハンドブック―精神障害のある方へ」。のぞみ福祉会・就労支援グループ編集・発行のパンフレットです。「就労意欲があっても、一歩踏み出せない人がたくさんいる。その一歩を踏み出すきっかけとなれば…」。発行に携わった精神保健福祉士・稲垣恵美さんの願いです。ちなみに中津弥子さんもこの就労支援グループに支えられています。

のぞみ福祉会では、JLS養成講座を受講したスタッフ五人が集まって、「働くことについて考える懇親会」の開催から始めました。働くことの不安や悩みを出し合い、働くことの意味やそのためには何が必要なのかを話し合うためです。

懇親会には予想を超える二〇名が参加し、就労に向けた講座も開催しました。「求人では即戦力を求められるので難しい」「病気をオープンにして働くのがいいか?」といった悩みや「一人前としての責任感・満足感・充実感を得たい」という希望などが話し合われたそうです。こうした取り組みを基礎として作られた同パンフレットには、当事者・雇用者双方の体験談や働くための心構えから履歴書の書き方まで具体的な情報が詰まっています。

ナチュラルサポート

「就労継続の成否はナチュラルサポートの形成にかかっています」―三宅嘉美さんは語ります。ナチュラルサポートとは、一緒に働く職場の同僚によるサポートです。ジョブライフサポーターは、直接的な現場支援を終了した後も見守り支援は継続しますが、現場支援は半年。何より職場の仲間による助け合いが形成されてこそ安定した就労となります。

「人を大切にする会社が長続きする職場です」―三宅さんはこれまでの経験から雇用した企業をこう評価します。障がい者雇用をとおして、新たにわかりやすいマニュアルが作られたり、作業の流れが明確になり誰もが働きやすい職場に変わっていくという変化もあります。

「今後は、企業に対してシステム変更の提案もしていきたい」と抱負を語る三宅さんは、今後の課題として@フォローアップ体制の充実、A離職後の支援、BJLSのスキルアップの三点を上げます。職場への定着には、継続した支援が望まれます。そのための財政的裏付けも必要です。また、安心して離職できるための地域の受け皿作りが重要ですし、これは就労支援と実はセットです。さらに「施設や作業所側にも就労を真正面に据えて積極的な支援体制を作っていただくことでJLSの絶対数も活動領域ももっと広げていく必要がある」と語ります。

障害者自立支援法には大きな問題がありますが、就労支援を高く掲げていることは評価できる点です。スローガン倒れにならぬよう具体的な施策を示し、成果の上がる制度を作り上げることが重要です。この点においても、JLS事業の活用と拡大が望まれます。

(2007/05/01)



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