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当事者リレーエッセー/幸せになりたい… 轟広志

今年の三月末に、堺市と合併した美原町から二〇分のアピールと、質疑応答の司会の依頼を頂いた。依頼の際に「ちのくらぶ」を訪れたスタッフとメンバーさんとで簡単な打ち合わせをした。

その時に来られたメンバーさんが、とても面白い人だった。たぶん病歴は私と同じくらい、年齢も似たようなものと思う。しかし、物凄く生真面目で一生懸命。私が、同行していたスタッフの方と、当日の段取りを確認していると突然「轟さん!」と叫んで立ち上がられた。その拍子に空の紙コップが倒された。ただそれだけの事である。しかし、彼はコップを倒して慌てふためき、コップを立てようとして、隣の紙皿の上のお菓子をばらまいた。「ああ」と叫んでお菓子を拾おうとし、となりのスタッフの中身が残ったコップまで倒してしまい、スタッフまで飛びのく騒ぎになった。僅か三秒程の出来事である。その騒ぎをテーブルを挟んで見ていた私は、喜劇王と呼ばれた「キートン」や「チャップリン」の動きを思い出していた。

アピール大会当日の会場は和やかな熱気で包まれ、いい雰囲気だったが、美原のメンバーさんからの発言は少なかった。打合せに同行していた彼が手をあげた。私は喜劇王との掛け合いを期待して、彼を舞台に招いた。彼は躊躇しながらも舞台に上がり「轟さん! 僕は、就職をして仕事をし結婚をしたら、幸せになれるんですか?!」と私に尋ねた。難しい質問である。精神障がい者の、就労と、結婚について、ひいては幸せとは?と問われた。私は正直に「就労と結婚が果してあなたの幸せにつながるかは、私は疑問です」といった意味の答えを返した。彼は困惑した表情を見せ、うつむいてしまった。私は少し考えて、彼を信じる事にした。うつむく彼に「今日はアピール大会です。今日だけでも、僕はこうして幸せになる!と言い切ってみましょう」と促した。彼は顔を上げ、私の目を見据えた。私は「あなたの言葉で『幸せになる!』と言い切ってみて下さい」と繰り返した。彼はマイクを握り、客席に向き直って、ハッキリとした声で「僕は、就職をして仕事を持ち、結婚して幸せになれるんですか?」と問うた。私は本当にコケそうになり、会場は笑いの渦に包まれた。が、彼が言い切れなかった意味は重い。

今はすべてが金なのか

つい最近、私は元国立精神病院勤務のドクターで、リハビリに尽力されている方の話を聞く機会があった。現在の長期入院患者の退院促進事業とは、もはや病院に置いていても儲からない。だから退院させている側面もある、と聞いた。自分のあさはかさを恥じずにいられない。障がい者の人権を尊重されてきた証と私は思い込んでいた…。今や全てが金なのか? 福祉とは病院経営のための尻拭い? だから「障害者自立支援法」?私は一体ナニをやって来たのか? 本紙五八ひきめの本部富生氏の言葉が痛い。「二九年やってきて、何も変えられへん」今はただ生きることだけは止めれないと思う。

(2007/07/04)



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