特集:政治に参加することは基本的な権利です
はじめに
最近の選挙の投票率は五〜六〇%位のことが多いです。参院選はどうでしょうか。
「国」や行政のやっていること、議会のしくみがわかりにくい。選挙に行ったって、誰に投票したって、どうせ同じやろう、という声もよくきかれます。しかし国会で国の法律やしくみが作られ、政府の予算と決算がチェックされます。一般市民がいくら意見を書いたりデモしたりしてもなかなか届かないことが、議員が議会で言うと、政府を動かす力になります。それだけに、ちゃんとした人を選ばないといけません。
投票に行き着くまで
障がい者本人が同じ一票をもつ事がまだまだ浸透していません。とくに知的障がい者や精神障がい者、認知症の方の場合、周りの人が「決める能力がない」と決めつけ棄権させたり、家族が代行することもあります。
投票したくても、家族に介護の負担をかけられず行けなかったりします。投票のやり方を一つ一つ教えてもらう必要のある人は、サポートが得られないために投票できなかったりします。投票所で投票したいと希望する全ての人に、介護と移動手段、アクセスを行政で保障する対応が必要です。
投票所に行けない人の為に、選挙管理委員が投票箱を家や施設など、その人のもとに運んでいって投票する国もあります。
日本では重度の身体障がいのある人は郵便投票も利用できます。自分で字を書けなければ代筆も可能になりました。しかし、知的障がいや精神障がいの人は対象外です。郵便投票の申込みには、かなりの期間がかかり、手続きがややこしいなど使いづらい面もあります。
投票の意思があっても、選挙法の制限のために投票できない障がい者もたくさんいます。
投票所のバリア
最近では点字やスロープ、低い記載台などが用意されるようになってきました。スロープは仮設の所が多いのですが、投票所はもともと公共の場所なのだから、出入りぐらいバリアフリーにすべきです。
実際に障がいをもつ人が行くと、配慮のない対応も見受けられます。雨の日は学校や保育所では地面がぬかるんで車いすが進まないこともあります。会場には係員がたくさんいても、誰も手伝いに出てこないし、それどころか車いすで入れて貰えなかったという人もいました。
視覚障がいの人で初めて行く投票所の入口が見つけられず、さんざん探した挙げ句わからず、あきらめて帰ったという話もありました。
選ぶための情報
誰を選んだらよいのか、決めるための情報が少なく、わかりにくい、ということがあります。
選挙期間がとても短い上に法律の規制が多くて、視覚、聴覚、言語、知的などの障がいのある人に情報が行き届いていません。家の中や施設の中からほとんど出られず、情報が伝わりにくい障がいをもつ人たちにも、もっと直接話しかけ、ふれあえるような場があれば、どんな人か伝わりやすいのですが。
公職選挙法は「公正」のために厳しい規制をすることで、障がいをもつ人たちのコミュニケーション手段や活動・表現の方法を奪っています。
ビラやポスターの種類と量を増やせば、絵や写真、平仮名なども使ってわかりやすく工夫することもできます。演説会や戸別訪問が自由に認められ、点字、手話、通訳を使ったり、電話、ファックス、ビデオ、テープ、インターネット、デジタル情報など、もっと多様な手段で広く伝えられるような情報のバリアフリー化が進められないといけません。
投票のしくみ
○月○日は投票日です。みなさん投票に行きましょう!との呼びかけに加えて、「障がい者や高齢者のみなさん、投票に介護の必要な人はヘルパーが使えますよ」とか、「投票所で必要なお手伝いは係員がしますよ」と知らせるようなシステムを作っていかないと、実質的な投票の保障にいたりません。
投票に行っても、書き方を間違えたら無効票になります。難しい漢字を上手に書けない人もいます。腕や手が硬直するので書くのはたいへんという人もいます。最高裁判事の審査のような全員の名前が書いてあるリストに丸をつけるとか、ボタンを押して選べるやり方もあれば、無効票は減るでしょう。
少ない投票率のうちで、さらに五〜一〇%くらいの無効票があり、書き間違いで無効にされる票も少なくないのです。選挙や投票のしくみがわかりにくいため、一票を有効に使えないでいる人は障がい者に限りません。選挙に行ったことがない「無関心層」といわれる人たちの中にも、おそらくたくさんいます。
見えない人、文字が苦手な人、聞こえない人、話し言葉の苦手な人、いろいろな障がいのある人も、選挙のことが本人にわかるように伝えられ、平等な有権者として投票できるように選挙法改正も必要です。
障がい者の政治参加
日本国憲法は、選挙権・最高裁判所裁判官の国民審査・国民投票・住民投票・請願権と、市民が直接意見を出す参政権を保障しています。精神の自由や表現の自由という面でも、個人が社会についての考えを広めることが保障されています。
政治は、国や政府のためではなく、そこに住む一人ひとりのために社会を動かすことです。
障がい者の多くは、差別を受け、社会の片隅に追いやられています。学校や就職でも、障がい者向けの特別な場所に分けられています。こうして政治的、経済的、社会的意思決定に参加できない結果として、社会から取り残されてきています。
障がい者は何もできないといった差別や偏見、アクセスできない社会環境、介護やサポート体制の不足、収入を得る施策のなさ、といったことを変えていかなければ、障がい者の社会的地位の改善もありえません。「完全参加と平等」を実現していくために参政権は、障がいをもつ人にとって、障がいをもたない人以上に重要で、切実な権利です。
投票することだけでなく、障がい当事者が選挙に出ることや、社会のあり方やしくみについて意見を言い動かしていくところに参加することが、もっと自由にできるようにならなければいけません。
地方自治体では障がい当事者議員も増えてきました。国会でも、自立支援法を見直したり、差別禁止法を作ったり、障がい者の権利条約を批准したりを進められる人、自分たちにとって大事な意見を言ってもらえる人に入ってもらいたいものです。
(2007/08/01)