リレーエッセイ「低床電車は導入されたけれど」村上博
一〇月五日付、地元紙のコラムに熊本市の低床路面電車と危険な電停の問題が掲載されました。記事の内容は、「低床電車は床の高さが三〇aと低く電停との段差が気にならないため、お年寄りや障がい者・子どもも利用しやすい快適な構造の電車として、全国の耳目を集めた。しかし、電停が未整備なためにその特徴の半分も生かせていない。三五ヶ所の電停のうち、車いすで利用できる電停は一五ヶ所しかない。幅が狭く危険な電停では人がすれ違えない。傘をさして市電を待っていたら、横を通り過ぎるトラックに巻き込まれそうになった」というものでしたが、私のこれまでの取り組みの不十分さを指摘する記事でもありました。
低床電車が導入されて丸一〇年。この間、電停は全く整備されず、状況はまさに記事の通りです。
市民病院の最寄りの電停に降りたことがあります。私の車いすは身体に合わせてかなりコンパクトなサイズですが、「線路側の車輪がはみ出ているのでは」、と感じるほどの電停の狭さ。フェンスに必死につかまりました。
市民病院は総合病院なので、複数の科を受診しなければならないリウマチ患者にとっては受診が一ヶ所で済み、とても楽なのです。本当は行きたいのにもかかわらず、「電動車いすではあの電停には降りられない」と幾つもの病院を受診している仲間がいます。
今も忘れぬフランスの仲間の言葉
私は九四年、低床電車やバスに体験乗車するために仲間たちとヨーロッパを訪問しました。その際、幾つもの都市で衝撃を受けました。車いすの人やお年寄りたちが、日常生活の中でいとも簡単に、気軽に低床電車やバスを利用している様子を目の当たりにしたからです。障がいがあっても好きな時に手助けなしに行きたい所に行ける。なんと素晴らしいことでしょう。
言葉が通じない外国の街で実際に一人で低床電車に乗り、駅のカフェテリアで食事をしたとき、興奮を抑え切れず心が解き放たれるような自由さを感じたものです。ヨーロッパの様子を脳裏に刻み付け、「熊本にも絶対走らせるぞ」、と心に誓いました。
署名活動やメインストリートでのパネル展示など、導入に向けた様々な運動を展開し、九九年にやっと実現できたのですが、電動車いすでも乗降に十分な広さの電停は、未だわずか一〇ヶ所。移動の制限を受け、きつい思いの仲間たちの実例を示しながら、行政とやり合ってきたこの一〇年間でしたが、市民なのに市民病院を利用できない仲間たちのことを考えると歯がゆい限りです。
また、八月にも歯がゆさを感じました。JR西日本のポスターを目にしたときです。この国は少数の立場の人の人権に鈍感です。
「あなたが言わなければ誰が言うのですか、言い続けなさい」。フランス・グルノーブル市で低床電車のことを説明してくれたアン・フェルナンデスさんの言葉を今も強く思い出します。(※電停=路面電車の停留所)
(2007/11/14)