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特集:点数がとれなくても高校生になりた〜い

はじめに

友だちと同じように自分も普通に高校へ行きたい。こんな思いをもった障がいのある子どもたちや親、教師たちが集まって、一〇月二七日、豊中で公開学習会が開かれました。心配された雨も降らず一二〇人の参加があり、会場での質疑やアンケートにも多くの感想や意見が寄せられました。

障がい当事者、保護者、支援者や関係団体の強い要望を受けて、大阪府は二〇〇六年度から府立高校で知的障がいのある生徒を受け入れる制度(知的障害生徒自立支援コース)を本格実施しました。募集人員の少なさ、高校での教育内容や条件整備等、多くの課題をかかえたまま、はたしてこれが「共に学び共に育つ」教育と言えるのか、根本的な議論を呼ぶスタートとなっています。

まだ制度自体を知らない保護者も多く、中学校進路担当の先生ですら知らないこともあるのが実態です。そこで、府の教育委員会に直接説明してもらって、受験の当事者である障がい者・保護者らが直接話し、考えていける機会を作ろうと学習会が呼びかけられました。

会場では、自立支援推進校を主導してきた大阪府教委・障害教育課・有本昌剛さんから制度の説明と成果などが語られ、実際の現場の様子を大阪府立園芸高校「自立支援コース」コーディネーター・平井文友さんが報告されました。

普通であれば、地域の小中学校で友だちと共に学び育ち合う中で、友だちと同じ学校を希望し一緒に受験に向かうのは当たり前ではないでしょうか。しかし、障がい者(児)ゆえに、最初から一般受験の対象外とみられてしまうのが現状です。とりわけ「知的障がい」と言われる子どもたちは、ペーパーテストで点数を取るのは難しいことが多く、定員割れがなければ高校の門をくぐるのは至難です。

共生社会を実現するうえで、教育と就労は重要な柱です。「点数が取れなくても高校生になりた〜い!」と願う、障がいのある子どもの高校進学について考えてみます。(編集部)

自立支援コースとは?

「障がい生徒のコミュニケーション能力や意欲・社会性は確実に高まっている」。この日、障害教育課・有本昌剛主事は、自立支援推進校設置の成果を強調しました。また「まわりの生徒も共にやっていくための工夫をして、穏やかで思いやりのある雰囲気が作られている」との報告も寄せられているそうです。

受験時の様々な配慮が認められ、身体障がい生徒の高校入学は増えてきました。しかし、知的障がい者にとって受験の壁は依然として厚いのが現実です。

高校進学率が九六%に達し、高校でも「共に学び共に育つ」教育への要請が高まっているとして、大阪府教委は「知的障害のある生徒の高等学校受入れに係る調査研究」を二〇〇一年から府立高五校で実施しました。

〇六年度から調査研究を継承する形で、一般入試とは別枠で二〜三名を受け入れる「知的障害生徒自立支援コース」を制度化し、「自立支援推進校」として府立高九校と大阪市立高二校にコース設置。たまがわ高等支援学校(知的障がい者対象の養護学校)の開校にあたり、二名を一般高校である府立枚岡樟風高の「共生推進教室」に通わせて他の生徒たちと共に高校生活を送るという「共生推進モデル校」もスタートしました。

自立支援推進校の生徒はどんなカリキュラムで高校生活を過ごしているのでしょうか?

大阪府立園芸高校(池田市)は、調査研究段階から障がい生徒を受け入れてきた農園芸の専門高校です。二一世紀は農業の時代といわれ、地球温暖化への対策やバイオサイエンスなど最先端を担う高校でもあります。

現在府下全域から八名の障がい生徒が通学しています。クラスは他の生徒と同じ。カリキュラムは「障がいに合わせて、個別に編成する」配慮がされているとのこと。抽出授業と呼ばれる障がい生徒だけの個別授業や、自立活動として老人ホームでの実習も組み込まれ、様々な工夫を生み出してきました。

授業では、花や野菜を育てます。土いじりが好きな生徒はいいけれど、そうでない生徒には色々と考えておられるそうです。放課後には、支援教室で一日の感想や連絡の確認をして、クラブ活動にも参加します。

成績評価や進級は試験による相対評価ではなく、学ぶ意欲や態度など個々人の学習目標で評価する「個人内絶対評価」です。

卒業後の進路については、 調査研究校時の五年を含めても一般企業への就職は実現していません。二年生から進路指導を行い、職業適性検査やハローワーク面接、企業体験実習などが行われています。


高倍率の狭き門

今年度、自立支援コースは、二八人の募集に対し、九四人が出願し、平均競争率=三・四倍。一般倍率=一・五倍(後期選抜=一・二倍)と比べかなり高く、柴島高では五・三倍でした。選抜基準に学力テストはなく、調査書・推薦書と面接(志望の意欲など)が総合的に評価されます。

「高校三年間をみんなの中で過ごすのは本当に大切なことやと思う」。「九四名中、二八名ではとても不安。もっと広い合格を」。「限られた推進校の中で、通学経路や時間を考えると、実際通学するには非常に厳しい現実」。「自立支援コースのことは全く知らなかった」。「小中学校の生徒に、進路は養護学校だけでなく自立支援コースや、他にも受入れ先があることを知らせてほしい」。「高校はあきらめていたが、前向きに考えたいと思った」こんな感想が寄せられています。

もっと広報すれば倍率はさらに高くなるかもしれません。広く門を開くことが必要です。

一般受験への希望

「特別なコース選択でなく、地域の高校に進学できるのが一番いい」。「共に生きる、共に学ぶという考えからみると、自立支援コースはどうかと思う」。「一般受験の話ももっと聞きたい」―自立支援高制度は、分離教育の補完物となりかねない、という声もあります。「障害児を普通学校へ全国連絡会」の北村小夜さんが東京の状況を話してくれました。

東京都では、定員割れ校で不合格者を出さない方針から、障がい生徒が普通高に行く先例ができました。都立高入学を望む障がい生徒は、定時制を含めて学校を選ばなければ、ほぼ入学できるようになったそうです。

養護学校高等部しか選択肢のなかった「点の取れない子どもたち」が全国で普通高に入学しつつあります。「統合教育の原点に返って、どんな障がいがあっても高校に入学できるよう大阪の制度も見直して欲しい」と要望されました。

学習会を主催した「豊中『障害』児・者の生活と進路を考える会」の鈴木留美子さんは、「自立支援高制度はゴールではなく一つのプロセス。原則はあくまで普通校への入学」と言います。

豊中では早くから普通校に行こうという運動がとりくまれてきました。養護学級に籍を置きながら原学級に通い、障がい児が普通学級で机を共にする実践を積み重ねてきました。その延長で教育委員会とも交渉を重ね、高校受験の際の配慮事項なども獲得しました。

自立支援高制度が始まって、親も教師も問題が解決しつつあるように錯覚しています。「知的障がい生徒は自立支援コースへ」という流れが定着してしまうと、逆に高校一般入学の門は狭くなりかねません。

小中と普通校へ通学した生徒が、皆といっしょに高校へ行く、このことは地域で生きていくための大きな担保となります。学習会は今後も続きます。

(2008/01/05)



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