力のこもったドキュメンタリーをみて〜石塚直人
新年早々、力のこもったドキュメンタリーを見た。六日夜のNHKスペシャル「激流中国―五年一組 小皇帝の涙」。五輪開催を控え急速に変貌を遂げる現代中国を、教育の面から切り取った秀作だ。
映像の力に感心しつつ…
「小皇帝」は、一人っ子政策の下で過保護に育てられ、わがままに振る舞う子どもを指す。この国の将来は大変だな、と誰でも考える。しかし、映像が示したのはそんな単純なものではなかった。
取材は、雲南市の小学生の日常を丹念に追う。英語や数学など、授業の進度は日本よりずっと早い。子どもたちは夜遅くまで宿題に追われ、家では母親、さらに父親もつきっきりで指導する。成績の悪い子が仲間はずれにされ、早く帰ろうと放課後の仕事をさぼる子が出たことで、担任の女性教諭は彼らに話を聞き、そのつらさを知る。「成績が悪いからとお母さんに殴られる」「優等生と比べてけなされてばかり」――。
受験戦争はどこも同じだが、一人っ子だけに家庭内で「煮詰まる」苦しさはひとしおだろう。しかも、中国ならではの事情が後で判明する。取材に応じた親たちの多くが「学歴がないからリストラされた」経歴の持ち主。夫婦とも正社員だったのに今はパート、この子にだけは、と尻をたたく以外に術がないのだ。
担任自身、新学期には「とにかく勉強しなさい」と繰り返していた。公立小学校も成績で評価されるから、校長もそれで頭が一杯。番組は最後に、過度の競争が子どもに与える弊害について政府が警鐘を鳴らしたこと、泣きながらつらさを訴えた当の子どもが「どうせこの国は変わらない」とつぶやいたことを紹介した。
いつの時代でも、民族の将来を担うのは子どもたちだ。彼らにこれほどつらい思いをさせる社会がそのままでいいはずがない。振り返って日本はどうか。まだまし、と言って済ませるだろうか。
やっぱり強い、現場の迫力
テレビがやたらに騒がしく、薄っぺらなものになって久しい。でも、たまにこうした番組を見るとうれしくなる。社会主義圏での突っ込んだ取材は日本と比べても格段に苦労するのが通例だが、中国の当局者も問題の深刻さに目覚めたのだろう。でもこれだけの内容を、映像なしの文章で読者に伝えるのはとても難しい。
朝日の夕刊コラム「素粒子」の筆者は、ホームレスの人たちと一日一夜を過ごしたと書いた(四日)。寒さでがたがた震えながらでしかわからない真実、は確かにある。
(2008/02/10)