特集:危機に立つ小規模作業所
障害者自立支援法本格実施で、障がい者の行き場がなくなる?!
「障がい者の行き場がなくなる」こんな危機感が地域にあふれています。〇六年一〇月から障害者自立支援法が本格実施され、全国の市町村で小規模 は「地域活動支援センター」への移行をせまられています。そして小規模作業所への補助金を廃止した、もしくは廃止予定の自治体は、五〜七割弱(〇七年度)にのぼっています。兵庫県でも昨年一一月に発表した行革案の中で二〇一二年度以降は、小規模作業所への補助金を廃止するという案が出されました。 こうしたなか尼崎市で「小規模作業所フォーラム(阪神地域)」が行われました。「小規模作業所の未来は?」と題されたシンポジウムには、尼崎市障害福祉課・橋野繁さん、小規模作業所尼崎連絡会・加山吉恵さんの他、支援法内移行を終えNPO法人化した「タオ工房」・芝真理子さんらが参加し、多様な立場から活発な議論が展開されました。(編集部) |
フォーラムには、八〇名超の関係者が真剣な議論に参加した |
残るも地獄、進むも地獄
小規模作業所への補助金廃止は、たちまち閉鎖へと繋がりかねません。そこでいくつかの作業所はNPO法人を取得して地域活動支援センターへ移行した作業所もありますが、、その運営費は無認可小規模作業所並かそれ以下という有様です。
こうしたなか地域の大法人や社会福祉協議会に吸収合併される所や、閉所に追い込まれる所もでています。自立支援法に基づく新事業体系は小規模作業所を追い込み「残るも地獄、進むも地獄」という事態を起こしています。
そもそも無認可の小規模作業所は、行き場のなかった障がい児・者の社会参加の場として一九六〇年代から全国に広がり、〇六年には、約六〇〇〇ヵ所まで広がっています。法律で定められた通所授産施設は二七二六ヵ所であることを見ても地域で果たしてきた役割は大きなものでした。
法定の認可施設が受入れなかった重度の障がい者や制度の谷間で支援の対象とされなかった人たちも、障がいの種別を問わず積極的に参加し、一〇人未満でも活動できる場を創りだしてきたのが小規模作業所です。民家や空店舗といった身近な場所で、有志の持寄りでスタートして、行政にも必要性を訴え自治体の補助金を獲得してきたのです。少人数だからこそお互いに支えあって、地域での活動をそれぞれ個性的に展開してきたといえます。
しかし、国による補助金は一ヵ所年間一一〇万円を全国団体を通して一部に出していただけで、都道府県による補助金額も大きな地域格差があり、平均すると四〇〇万円程度という低額です。尼崎でも、法内の施設支援サービスの利用者一人あたりの予算が月一八万九四八九円に対し、小規模作業所は、七万六三七〇円で半額以下の補助です。
また、〇五年に始まった「小規模通所授産施設」も結局、無認可作業所の運営実態より厳しいくらいで、五年以内に新体系への移行を求められ、制度に振り回される状況です。小規模作業所から新体系の事業移行を考えてみると、最低定員二〇名、または一〇名というのが大きな壁です。これまで七〜十数人での活動をしてきた所が多く、人集めも場所の確保も、仕事や活動の組立ても大きな問題です。
また、旧来の授産施設も含めて、新体系の事業の運営費(報酬)がかなり低いことが大問題です。しかも職員の配置基準は、障がい者六〜一〇人に対して一名以上などとされていますが、実際の現場でこの人数ではとても無理。職員の増員は、どの選択肢でもお金が不足し、見通しがたたないのです。
深刻な人材不足─アンケート調査より
元々作業所運営は困難で、関係者の好意や犠牲的精神によって支えられてきたのですが、人が集まらない、育たないという人材不足は特に深刻です。
尼崎作業所連絡会は、市内の作業所で働くスタッフを対象にアンケート調査を実施しました。代表の加山吉恵さんは、「障がいを持つ仲間がいるので作業所をつぶすわけにはいかない。でも、みんなが働き続けるには過酷だ」と言います。
加山さんの一番の悩みも、頻繁にスタッフが辞めていくことです。「結婚するので、辞めざるを得ません」こう言って作業所を去っていくのは、作業所の給料では生活が成り立たないからです。職員への「職場がどうあれば働き続けられますか?」という問いでも、「バイトをしてやっとの生活です。今は実家に住んでいるので何とかやっていますが・・」とか「年々運営費に苦しみ、職員が減る一方である。マンパワーが必要」という声が寄せられました。
尼崎市内の小規模作業所で働く三七名の職員のうち、〇六年の収入は、二〇〇万円未満が一五人(四〇%)、三〇〇万円未満が九人(二四%)。四〇歳代で一〇年以上働いていても三〇〇万円以下というのが実態です。
NPO法人大阪障害者センター常務理事の井上泰司さんは、福祉が細切れになって全体が見えにくくなっていることも人材が育たない原因のひとつだと指摘します。介護保険制度が導入されて以降、サポートが外出や家事援助や入浴というふうに細切れになり、やっていてもその人の全体像が見えにくいために「私は一生懸命やっているけれども本当にこの人の為になっているのだろうか?」という疑問が湧き、やりがいを見出しにくくて、しんどい仕事になってきているということです。
若い人に広めよう─三つの提言
それでも、「働き続けたいか?」との問いには、はい=二二人(五九%)、わからない=一二人(三七%)、辞めたい=一人でした。障がい者と共に働くことに意義やおもしろさを感じながらも、生活不安から迷っている姿が伺えます。
「ここの職場で人生観が変わりました。とても大切なものを毎日得ています。お金には代えられない、本当に大事なものに出会えました」こんな回答もあります。
こうした現状に対し、井上泰司さんは、「明るい展望を若い世代に示して欲しい」と語ります。そして@持続可能な運営を保障する制度の確立、Aこれまでの支援をより充実させるための具体的提案と合わせてB作業所の運営が必要性と喜びに満ちた意義のあるものであるというメッセージを広く伝えていくことを提言しました。
(2008/03/10)