中国という国の描き方ー石塚直人
脅威と混乱をあおるのではなく
「中国産冷凍ギョーザ」。農薬が混入された餃子による中毒事件が最初に報じられた一月三〇日以来、この文字を何回、パソコンの画面に打ち込んだことだろう。
私の仕事は、五〇字や三〇字の短い電光記事を作ること。その日の代表的な記事を網羅する必要があり、これだけ大扱いのテーマを無視はできない。ただ、事件がきっかけで「中国の奴らが」といった排外主義的な風潮が広がるさまを見ていると、複雑な思いに捕らわれる。
「中国産」と入れずに記事を作ることは可能だろうか、と最初は考えた。結論は「無理」だった。すぐに消えてしまう電光ニュースは、読者が見て即座に理解できなければならない。表記はそのうち「中毒ギョーザ」などに変わったが、それは「中国産」とあえて説明しなくても、だれもが知っているようになったからだ。こうした仕事が無限に重なることで、中国「脅威」説も強まっていく。
中国の現状が「危険」なのは確かだ。食品衛生だけではない。前回触れた子どもの教育もそうだし、渇水や大気汚染など環境全体も危機に瀕している。ただ、それに対しては、当事者が問題と向き合い、自ら解決に努めるしかない。外国の立場からは、先進技術の提供など友情に基づく支援こそが必要で、単なるバッシングは混乱を深めるだけだ。
北京五輪が間近とあって、各紙はそれぞれ取材団を派遣し、さまざまに中国の現状を紹介している。利潤追求のため人命も顧みない経営者がいる一方で、出稼ぎ農民の福祉や水問題の解決に力を尽くす人たちがいることも、多くの読者に知って欲しいと思う。
優れたルポにふれてほしい
とにかく、とてつもなく大きな国。いい面でも悪い面でも日本とはけた外れ、と数年前に教えてくれたのは、訪中経験豊かな高知の友人だった。「集中豪雨で河川が氾濫すると、水が引くまで半月かかる。下流では影響が大きすぎるから、これはと思えば中流でわざと堤防を決壊させるが、周辺住民への避難通知は直前。今の技術では、それ以外にやりようがない」。
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私は読売オンラインのウェブ連載で、二回目に「緑の地球ネットワーク」を取り上げた。中国・山西省で一六年にわたり植林に取り組んでいるグループで、事務局長の高見邦雄さんが綴る「黄土高原だより」は、現代中国ルポとしても優れている。一読を勧めたい。(連載そのものが、間もなく全一七回で打ち切りの見通しのため、必要な方はバックアップを取っておいて下さい)
(2008/03/10)