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特集:「福祉施設」建設、反対から応援へ

はじめに

「いやー本当に苦労しているよ」。AJU自立の家・常務理事の山田昭義さん(頸椎損傷・四肢麻痺)は、ため息をつきました。「多機能型福祉サービス施設」建設計画に対し反対運動が起こり、計画公表から一年経っても着工の目処が立たず、市予算の二〇〇七年度内執行は不可能となったからです。

「AJU自立の家」は、一九七三年、障がい当事者中心に身体障がい支援活動を開始。八四年に昭和区に本部を移転して以来、通所施設やホームヘルプ、福祉機器レンタル事業にも活動を広げてきました。建設計画は、本部敷地内の二階建て施設を三階建てに建て替えるとともに、約三〇〇b離れた場所に四階建てを建設。身体・知的・アルコール依存症の人を含む精神障がい者に自立訓練や就労支援などを行う予定です。この計画に反対する住民は、精神・知的障がい者が「住民に危害を加える不安がある」と言います。昨年一〇月には、反対意見の住民が四八〇〇余の署名を市に提出しました。

これは、精神・知的障がい者に対する偏見が根強い現実を示すものですが、ねばり強い説明やニュース発行によって理解が深まり、冷静に考えようとする人たちの組織も生まれました。(編集部)

思いがけない反対運動

「おおいに話し合い、みなさんが安心できる福祉施設を模索しませんか」―福祉施設を考える会・舟橋勝さんの呼びかけです。この会は、住民の反対意見と賛成意見の直接対話を願って一月に結成されました。舟橋さんは、「反対する人たちの不安も理解できる」とした上で、「不安を解消するため、お互い知恵を出すことが必要だ」と語っています。

AJU自立の家・施設準備室の鬼頭義徳さんも、こうした自発的な動きを大歓迎しています。AJUは、地元町内会との話し合いを求め申し入れを重ねましたが、町内会は「役員全員反対だで、ええわ」と突っぱねたからです。町内会役員は、「建設絶対反対」ステッカーを各家に貼り、反対署名を集め始めました。

反対の理由は、「アル中の人間がウロウロするから危険」「もしも事件があったらどうするのか?」というものから、「地価が下がる」というものまで。さらには「山のなかに作れ!」という意見も飛び出したそうです。

今も反対する人たちは、態度を変えませんが、二月中旬、法務局が「ステッカーは人権侵害のおそれがある」として町内会長に警告を発しました。

ねばり強い説得とニュースの配布

AJUの施設建設は、障害者自立支援法が背景にあります。同法は、身体・知的・精神という三障がいの一元化を求めました。この理念を生かすべくAJUは、様々な障がいに対応する多機能型施設建設を計画しました。

この計画は、補助金が必要なため市議会で審議され、地元の同意を得るという付帯決議とともに承認されたものです。

建設に向けてAJU側は名古屋市と協力しながら一〇回を超える説明会を行っています。また「地域とともに」というニュースを発行し、住民の疑問に答えてきました。

ニュースには、地域の声が多数紹介されています。「精神病・うつ病という言葉が一人歩きしている。心の病が増えて、こういう施設が必要となっている」(地元住民)、「反対ポスターは、涙が出てくるくらい悲しかった。障がいを持った子が居てはいけないような言い方をされた気がした」(障がい児の母親)、「人間はいつかは衰えるし、誰でも障がいをもつ。誰でも支えてもらわないと生きていけない」(地元住民)などです。住民の理解は徐々に進んでいるようです。

私たちは地域で生活できないのですか?

「私はアル中です。ただし飲んでいないアル中です」こう自己紹介したのは、第三回説明会でアルコール依存の当事者として話をした森下さん(仮名)です。森下さんは、名古屋MACという依存症からのリハビリーセンターで二〇年間断酒を続けています。名古屋MAC指導員としてお話しされました。「アル中というと、飲んでいるアル中をイメージされる。飲んでいないアル中は、目立たない存在。お酒を取ったら普通に振る舞えるが、孤独では難しく仲間が必要。施設は、飲まないで生きる方法を学ぶところ」と説明しました。

内閣府が昨年一〇月に公表した国際比較調査では、精神障がい者が近隣へ転居してきた場合、「意識せずに気軽に接する」とした割合は、米独の約四〇%に対して日本は約四%と低く、逆に、「非常に意識する」は日本で約二六%と高く、米独は二%前後でした。

関西学院大学の大谷強教授は、「日本は最近まで、障がい者を精神病院や山奥の施設に隔離する政策を続けてきた。障がい者と接する機会が少なく『よくわからないので何となく怖い』と感じるのだろう」と分析しています。

また、精神障がい者の立場で、厚生労働省社会保障審議会の部会員を務めた広田和子さんは、「犯罪や自殺、他人に迷惑をかけるケースでは、精神障がい者が地域社会から孤立している場合が多い」と指摘しています。

医療と福祉が連携し継続的に支援することで、孤立化せず、早期に対応できるので危険を回避できるのです。

変わり始めた世論

三月上旬、元名古屋市議会議長が突然AJUを訪問し、山田理事に面会を求めました。曰く「私もグループホーム建設を計画中だが、両隣から反対されている。AJUのご苦労はよくわかる。私も応援する」。山田さんは、「こういう声が生まれてきた。とても大きな援軍だ」と手応えを感じています。

また、「町内会長に言われて反対署名を集めた」という住民が一月の説明会で、「署名集めに行った先で『あんたの家族にそういう人がいたらどうするつもりかね』と言われて目が覚めた。今は反省しています」と述べたそうです。

昨年一一月には、「建設促進を求める署名」五八〇〇余名分が名古屋市に提出されました。署名活動は継続されており、山田理事は、「障がい者は危険だという誤解が、市民の手によって解かれようとしている」と期待を寄せます。

「どんなに重度な障がいがあっても一人の人としてあたり前の人生を送れるよう、また地域のなかの社会資源として役に立てるよう力を尽くしたい」。山田常務理事はこう語ります。

ただ反対運動に遭遇して山田さんは、「施設も地域の一員であるという自覚が足らなかったのかもしれない。職員・利用者だけでなく法人としても自治会に入れてもらって、地域との密着度を高めていきたい」と教訓を語ってくれました。

三月二五日、「福祉施設建設を考える会」が主催する説明会が行われます。反対する住民が出席すれば、直接対話が始まる可能性もあります。AJUは、四月以降、毎月シンポジウムを開催して様々な人々の意見を聞く場も計画しています。今後も見守っていきたいと思います。

(2008/04/10)



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