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ワンステップバスの乗車体験をする北千里小学校の生徒たち

特集:小学生の車イス体験学習

はじめに

「乗客がいっぱいの時に車イスの人が乗ろうとしたら、どうするんですか?」、 「ワンステップバスがない頃、車イスの人たちはどうしていたんですか?」こんな質問が、バスの運転手さんに発せられました。

北千里小学校5年生の車イス体験学習です。2クラス=59名の生徒たちは、吹田にある共働事業所b-freeのメンバーの協力で、1ヵ月間(4回)の総合学習授業として車イス体験をしました。昨春にパラリンピックの学習から始まった障がい者人権教育。保護者の協力も得ながらの車イス体験学習を経て、「理想の地域づくりまでつなげたい」と、担任の先生方は今後の抱負を語ります。(編集部)

違う世界が見えた

「工夫さえすれば、できることはどんどん広がっていく。それを子どもたちにわかって欲しい」4年生担任の先生方が、パラリンピックを題材に取り上げたのはこんな理由からだったそうです。その後、バリアフリーのために身近で工夫できることはないか?と、校内のバリアチェックにつながりました。

生徒たちは5年生になり、担任を持ち上がった学年の先生方は、次のステップとして車イス体験学習を企画しました。

体験学習の1回目は、体育館。体育館に線を引き、ダンボールの壁を作って道を作り、車イスに乗って通行する体験です。ほとんどの子どもは初めての車イスに、興味津々。「普通に立っていると自転車はあまり大きく見えませんでした。でも、車イスに乗ってみると自転車が大きく見えました」生徒たちは、こんな発見をしています。

怖さや不便さを身をもって実感

2回目の授業で校内を車イスで通ってみると、普段気づかなかった小さな段差も車イスでは大変なことを実感したそうです。「車イスは乗っている人が楽だと思っていましたけれど、ほんとうは怖いということがわかりました」Yくんの感想です。他にも「狭い道は通りにくい」「目線が低くて違う世界が見えた」など、子どもたちの率直な感想が書かれています。

3回目・4回目は、2グループに分かれ、北千里駅周辺を車イスで通ってみる体験とワンステップバスの乗車体験を行いました。北千里駅に隣接した大型ショッピング施設=『ディオス』周辺を通るプログラムでは、「車イスでスロープをうしろ向きにおりるのが怖かった」(Kくん)、「(車イスを押すのは)意外と重かった」など、全員が乗る側・押す側を体験し、子どもたちなりに、怖さや不便さを感じたようです。「知識が実感の肉付けをされた」と担当の先生は子どもたちの成長ぶりを語ります。

まだまだ続くバリアフリーの工夫

ワンステップバスの乗車体験では、阪急バスの協力でバス1台を学校の正門に乗り入れて頂きました。千里営業所副所長・池田さんの説明によると、営業所130台のバスの内、52台が車イス対応車で、1日5〜6名くらいの車イス利用者があるそうです。阪急バスでは、10年前からワンステップバスの導入が始まり、2012年までに全車が車イス対応車に変わる予定です。

「保護者の協力も思ったよりも得られて、そうした意味でも成功しました」(波那本さん)。参加・協力した保護者からも「体験しないとわからないこともある」「大人になってからではこんな機会もないので、できるだけ体験をしてもらいたい」との感想が聞かれました。保護者にとっても新鮮な授業だったようです。

乗車体験の後には、質問コーナーもあって、「急いでいる他のお客さんから、到着が遅れることについて苦情はありませんか?」という鋭い質問も飛び出しました。池田さんによると、車イスの乗車・固定にはどうしても4〜5分はかかるために、「電車に乗り遅れた」との苦情が寄せられたことはあるそうです。このためワンタッチで車イスを固定する方法や、ステップの軽量化など、乗車・固定時間を短縮するための開発が今も続けられています。

「健康な人だけではなくて、あらゆる人に利用してもらい、利用者を増やしたい」ということで、今後も研究開発は続きます。

「これから車イスの人がくると場所をゆずることにします」(Hくん)、「今回の体験でわかったことは、この街をできるだけ多くのバリアフリーで一杯にしなきゃいけないということです」(Fくん)、「今度また車イス体験をするなら、…電車や友達と施設に行ってインタビューをしてみんなにクイズを出してみたいです」(Oくん)など、体験学習の強い印象は、子どもたちをとらえたようです。

先生方も「車イス体験を通して、今後は地域マップを作って、自分たちで工夫をする理想の地域作りに返していきたい」と語ります。

広げていきたい 車イス体験学習

1ヵ月間の準備期間を経て事故もなく体験授業を終えた波那本さんは、「阪急バスや車イスの確保など思った以上の人たちの協力が得られた。何より子どもたちが、喜んでくれたので成功したと思える」と感無量の様子です。

今回の体験授業に協力して企画をねった波那本さんたちb-freeは、2001年に結成されました。「健常者と障がい者が同じ立場で働ける場」がそのコンセプトです。2002年から学校での体験学習に協力したり、企画・運営したりしています。

今回、北千里小での授業に協力するにあたっても、生徒の年齢や安全性に配慮しながら、どんな体験をしてもらうのか? 段差や坂の高さをどうするか?また、校外コースは?という企画から、阪急バスへの協力依頼、車イスの手配など、苦労の連続だったそうです。

そうした綿密な準備が実を結び「(車イスは)『怖かった』『狭い幅の道は通りにくい』など、思ったとおりの反応をしてくれた」と波那本さんは満足です。

「頭が柔らかくて何でも吸収してくれる子どもの時期に体験をしてもらい、今までとは違った見方をして欲しい」との願いは、こうして着実に実現しています。

波那本さんとともに授業運営に参加した片岡さんは、「小学生の素直な質問にハッとさせられることもあった。子どもの注意を引きつけ集中力を持続させることには苦心した」そうです。

「今後は中学校も含めて他校にも広げていきたい。車イスの使い方の講習などの要望は寄せられているが、これを車イス乗車体験まで発展させて、広げていきたい」波那本さんは今後の抱負を語ります。

こうした体験学習は心のバリアを取り除くのに何より有効です。頭が柔らかく想像力豊かな子どもの頃の体験は、強く印象に残り、社会を変えていく大きな力にもなります。こうした体験学習を正式なカリキュラムとして学校教育に組み込むことが求められます。

(2008/08/11)



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