特集:障がい者差別禁止条例・養成講座
地域の人権意識底上げめざし、障がい者差別禁止条例制定へ
アドボケーター(権利擁護者)養成講座に若い障がい者参加
「地域で(運動の)核を作り、この講座を機会にスピードアップして条例化を進めたい」―メインストリーム協会(西宮)副代表・玉木幸則さんは、こう決意を語ります。
昨年より各国の批准が始まった障がい者権利条約は、批准国が20を越え、今年5月に発効しました。障がい者の人権確立への気運が高まる中、千葉県の条例化(07年7月)をはじめ、全国各地で差別禁止の条例づくりへの動きが始まっています。
障がいを理由に差別されず、誰もが当たり前の生活ができる社会を法的に保障するために、障がい者差別禁止条例や法律の制定が必要不可欠です。
JIL(全国自立生活センター協議会)人権委員会が、同条例推進のため、全国アドボケーター養成講座を開催しています。「差別とは何か」、「どうして条例が必要なのか」、「地域での取り組み方」等をテーマに、体験を出し合い、理論を学び、具体的な地域への取り組みにつなげる参加型プログラムです。
9月7〜9日、大阪・国際障がい者交流センターで行われた同講座には、全国から次代を担う障がい者が集りました。(編集部)
種別超えた多様な障がい者が参集
講座は、障がいが理由で困ったことや差別体験を出し合う「ワークショップ」で始まりました。出てくる、出てくる差別体験。子どもの頃からの体験をみんなが吐き出すと膨大になります。私も1班に参加し、体験をカードに書き出しました。
Aさんは、「バス停で早くから待ち、乗客が乗り終わるまで待ったのに、満員になって乗せてくれなかった」と言います。Cさんは、「ノンステップのバスなのに介護者がいないという理由で乗せてくれなかった」。
またKさんは、席はガラガラなのに入れて貰えないレストランの店員と口論になりました。店長も「昼時で満席になるから」と言うのです。幸い料理長が「誰であろうがお客さまを拒否するのは間違いだ」と正してくれました。が、帰り道、店員が待ち伏せ。「お前のおかげでクビになった」と絡まれたそうです。
視覚障がい者のHさんは、「横断歩道の信号機の音が夜間早く消える。視覚障がい者は夜間外に出るなと言われているみたいで…」などキリがありません。
この体験ワークショップの意義を東俊裕弁護士は次のように解説します。
@障がい者は差別体験を内に閉じ込めて、泣き寝入りしてしまうことが多い。Aしたがって、差別をされているのは自分だけではないこと、また自分が悪いわけではないということを知ることが大切だといいます。
こうして出てきた差別体験を参加者で分析し、類型化します。まず@行政、福祉、教育、労働、交通アクセス、公的施設など、分野別に分類。分野ごとに差別の特徴を明らかにします。
そしてA差別の特徴から、T直接差別、U間接差別、V合理的配慮の欠如と3つのパターンに類型化していきました。
私が、参加した1班の個別事例で多かったのは、交通アクセスの問題でした。障がい者が外に出られるようになったことではじめて見えてきた問題です。
また、他の班の人の「差別が続くと慣れてしまい、無難に過ごすことを無意識に選んでしまう」との言葉が印象的でした。(入部香代子)
「合理的配慮義務」って何?
2日目は、ロール・プレーで始まりました。よくある話をロールプレーの劇に構成して、人権委員会劇団が演じました。
懸賞でハワイ旅行に当選したYさんは、上下肢に障がいがあり、電動車イスで生活しています。準備万端で当日は、1時間前に搭乗手続きに臨みました。ところが航空会社は、緊急時の安全性やYさんの体調が変化した場合のことを考えて単独での搭乗を拒否しました。
航空会社の言い分は、@上下肢に障がいのある車イス利用者であることに加えて、コミュニケーションが困難で、緊急時に安全な脱出を保障できない、A突然の体調変化の訴えを乗務員が正確に理解できないおそれがある、Bトイレ介助や食事介助はできない。それが不要でも、トイレ時の機体の揺れに対応できるか? 等の問題を指摘します。
一方Yさんは、@安全については、高齢者の方も搭乗している。なぜ障がい者だけ問題にするのか?それは、障がいに基づいて異なった取り扱いをする直接差別ではないか。Aコミュニーションの問題では、乗務員がすべての外国語を理解できるわけではない。これも、障がいに基づく異なる取り扱いではないのか、Bトイレ介助は、トイレまでの移動介助を求めているだけで、食事介助もパッケージの開封などを求めているだけ。相手方に過度な負担がかかるものではない。これは、障がい者権利条約の「合理的配慮を提供しない」という形の差別ではないか、などが話し合われました。
このロールプレーでは、これらに加えて、C航空会社が(障がい程度等の)事前情報を求めることの可否、などの論点が整理されていきました。
「差別と思われる事例が発生した時に、話し合いで解決できる場合もあるが、相手が大きな組織の場合、他の事例にも波及するため妥協しにくい。このように意見と利害が対立した時、解決手段がないのが現状」―講師を務めた東俊裕弁護士は、こう解説した上で「その基準となる法律や条例を作ることが重要だ」と強調しました。こうした基準となるのが差別禁止条例=人権条例です。
障がい者差別禁止条例は、障がい者に特別な権利を与えるものではありません。障がい者の存在を無視して作り出す社会的システムが障壁となって、障がい者の社会参加を妨げている現状を解消するためのものです。「何が差別なのか?」基準を示して、相談・救済機関の設置を求めています。
グループ討論は、参加者が会社側とYさん側に分かれて、各々の正当性を主張するディベート形式で進められました。「反対側=会社側の立場に立って議論することで、より深く客観的に理解ができた」参加者の陶延 彰さんの感想です。
千葉県超える条例を
次の「条例作りの進め方」は、@誰が提案するのか? A誰と共有して進めるのか? B一般の人をどう説得するのか? の3点を軸にグループ討論です。
沖縄・自立生活センター・イルカの宮良康作さんは、「沖縄では、障がい当事者の意見収集に続いて、シンポジウムを予定している。しかし、沖縄は本島北部・中部・南部に加えて離島もあり、地域事情や個々の障がい者を取り巻く条件も違うので、共通認識・合意形成は簡単ではない」と報告しました。
西宮では、企業経営者や福祉関係者などの緩やかなネットワークである「進める会」があるそうです。「この福祉ネットワークをベースに差別事例を収集し、来年にはシンポジウムを開きたい」との発言もありました。
グループ討議のまとめでは、@障がい当事者が差別体験を出し合い、共通認識を作ることは運動の出発点であり、パワーとなる。A疎遠・苦手な団体とも繋がっていくための方法を考えよう。B一般の人の素朴な反論に答えるわかりやすい例や理論が重要、等が出されました。
「条例ができたとしてもそれを活用する地域基盤がなければ絵に描いた餅になる。地域に種を撒き、育てていく活動とそれを担う人材、特に当事者活動こそが重要だと思う」人権委員会委員でもある佐野武和さん(滋賀・CIL湖北)は、講師を終えてこう語りました。
北海道では、道議会与党・自民党が条例要綱案を示し、民主党連合は、「障がい児・者の権利擁護条例(仮称)検討プロジェクト」を立ち上げました。岩手では、県議会で請願が採択され、内容の検討に入っています。その他、三重・愛知・沖縄でも動きが始まっています。
「千葉を越える条例を作る」西宮の玉木幸則さんはこう決意を述べました。2006年12月に国連総会で障がい者権利条約が採択されて以降、07年に千葉県で条例が作られ、同条約が発効した今年、日本でも全国に波及しようとしています。同条例の制定を求める運動は、地域における人権意識を底上げする取り組みとなります。
(2008/10/29)