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特集:24時間介護を求め、和歌山・大阪で提訴

障がい者権利条約・憲法に沿って、必要なところに必要な介護を

「障がい者が地域で生きていける当たり前の権利について争っていきたい」―和歌山市に住む石田雅俊さん(40)は、24時間介護を求める裁判の目的をこう語ります。石田さんは、生まれつきの脳性まひで、首から下が自由に動かせず、介護者がいなければ体位を変えたり、食事や排泄、移動ができません。

ところが和歌山市は、24時間介護=744時間/月必要な介護を、昨年には377時間(必要時間の半分程度)まで削減しました。

このため石田さんは、「咳やくしゃみなどで体がイスから落ちると、自分では体勢を立て直せない。トイレにも行けず失禁することが多くなり、自立生活が困難になっている」として、市に対し24時間介護の支給を求めました。

大阪でも岸祐司さん(42)が、同様の裁判を行っており、10月31日には、30余名の障がい当事者が原告となり「障がい者自立支援法・応益負担違憲訴訟」も提訴されました。

障がいを理由とする差別を禁止する「障がい者権利条約」が国連で発効しました。これを実質化させるために、各地で様々な動きが始まっています。今回は、重度身体障がい者の24時間介護を求める裁判を取材しました。(編集部)

年々減らされ続けた介護時間

石田さんは、2004年に施設を出て、NPO法人「チャレンジ」の支援を受けながら自立生活を始めました。和歌山市の最初の調査では、介護時間を月535時間と認められましたが、05年8月には、浴室にリフトが設置されたなどの理由で478時間に削減。さらに障がい者自立支援法施行後の07年9月に和歌山市は、介護時間を200時間まで削減すると通告しました。これは、石田さんに大きな衝撃を与えました。

石田さんは、NPO法人「チャレンジ」の仲間の支援を受けながら1ヵ月間の交渉の末、介護時間は377時間となりましたが、自立生活はさらに困難になりました。社会参加のための勉強会への参加や、友人と会うことなどが制限されることになったからです。介護時間を削減された石田さんは、月2回の通院介護に、夜の介護時間を当てるなどの工夫をしていますが、「もはや限界。こうして毎年介護時間が減らされていけばいずれ生活できなくなるのは明白」と提訴に踏み切りました。

主任弁護士の長岡健太郎さんは、この裁判の争点を次のように説明しています。@24時間介護の必要性についてです。石田さんは、夜間でも30分から2時間ごとにトイレに行かねばならず、トイレまでの移動、トイレ介助にヘルパーが必要です。これに対し市は、2時間毎の巡回介護で足りるとしていますが、便意のコントロールが困難な石田さんは、次の巡回まで待つことができず、結局おむつをしなければなりません。これではとても尊厳のある生活とは言えません。

A移動介護です。和歌山市は、移動介護は1ヵ月10時間まで、特例で20時間までとなっています。石田さんは、料理が好きで、食材も自分で選びたいのですが、1日1回スーパーへ買い物に行くだけで最高時間を越えてしまいます。

さらに、長い施設生活を経て自立生活を始めた石田さんは、経験を生かして自立支援プログラムに協力してきましたし、自立生活を始める仲間の相談に乗りたいとも思っています。ところが、こうした社会活動も諦めなければなりません。講演会への参加や大阪に住む先輩への相談ごとなどの時間も、生活には必要不可欠です。このための移動介護を求めています。

厚生労働省も認める「見守り介護」

大阪・岸祐司さんの裁判を担当している池田直樹弁護士は、厚労省社会・援護局障がい保健福祉部の通達文書を示して、24時間介護要求の正しさを説明しています。

04年2月、厚労省は、都道府県に対し「重度訪問介護等の適正な支給決定について」という事務連絡を行っています。重度訪問介護とは、障がい者自立支援法で新設された在宅の身体障がい者向けの訪問系サービスです。

これによると「…基本的には、見守りなどを含む比較的長時間にわたる支援を想定しているものであり、…」と、「見守り介護」を厚労省自身が認めています。池田弁護士は、「こうした点も含めて行政は考え方を改めてもらいたい」と語ります。

こうしたなか京都市では、重度障がい者を対象にした訪問介護サービスの運用が、「見守り介護」を求める国の考え方と異なっているとして、日本自立生活センター(南区)が市に申し入れを行いました。京都市が、トイレや寝返り介助の間の短時間に限った介護しか認めず、ヘルパーが見守る時間そのものはサービス対象と認めていなかったからです。

長い交渉の結果、京都市は、「国の通達と見守り介護の解釈に違いがあった。弾力的に運用する方向で検討を急ぎたい」と表明し、その後、24時間介護が保障される重度障がい者が増えています。

大阪市や和歌山市では、事実上、介護時間の上限が決められています。しかし、重度訪問介護については厚労省の通達にもあるとおり、それぞれの状況に応じて支給されるべきでしょう。

「障がい者自立支援法」応益負担違憲訴訟

障がい者自立支援法訴訟は、同法の応益負担の原則が、憲法第14条「法の下の平等」に違反しているので、その撤回を求めるものです。2006年にスタートした障がい者自立支援法は、障がい者福祉に対する財政削減がそもそもの目的でした。このため当初から懸念されていたとおり障がい者の地域生活がより困難になりました。

具体的には、在宅の場合、月額最高37200円の負担増となり、福祉工場や授産施設で働く人たちにも「利用料」が課せられました。また自立支援法施行以前には、障がいが重く、1日24時間の介護保障を受けて地域生活を営んでいた人が、介護サービスの時間数を減らされてしまったという例も少なくありません。この基となっているのが「応益負担の原則」です。

障がい者が当たり前に生活することに利用料を課し、障がいの重い人ほど負担がかさむという制度に対し、「こんなんじゃ生活できない」と、堪忍袋の緒を切らした全国の障がい者が、裁判を起こしました。

憲法は、13条で「幸福追求権」を、第14条で「法の下の平等」をのべ、第25条では「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を明記しています。障がい者自立支援法は、憲法の理念を大きく踏み外すものです。

障がい者権利条約が発効した今だからこそ、同条約に沿った国内法の改正・運用の見直しが必要です。

(2008/11/10)



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