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新聞の作り方-戦争に抵抗する『柔らかい心』- 石塚直人

「強さ」より確かなもの

毎日新聞西部本社に、福岡賢正さんという記者がいる。うかつなことに、この9月17日までその名を知らなかった。この日朝刊中面の連載記事「平和をたずねて・『強さ』より確かなものD」を読み、心を揺さぶられた。

日中戦争に従軍し、帰還後に精神を病んだ大賀龍太郎さん(81年、78歳で没)と長女の辻野弥生さん(67)、五男の和男さん(62)が登場する。大賀さんは酒を飲むたび「日本はむごいことばかりしていた」と泣きながら「新兵の度胸つけ」と称した捕虜の刺殺など軍の残虐行為を繰り返し語り、最後は「おれはやっとらんけんね」と叫んで終わるのが常だったという。

生前はそんな父が疎ましかったが、子ども2人は大賀さんの死後、それぞれ千葉と福岡で戦争の爪跡を記録する作業に取り組んだ。父の執念が乗り移ったかのように。弥生さんは関東大震災の際、香川県の被差別部落から行商に来ていた14人が朝鮮人と間違われて暴行され、幼児と妊婦を含む9人が殺された事件を掘り起こした。

連載では、大賀さん以外に2人の元兵士が紹介されている。3人の共通点について福岡さんは「戦争だから、命令だからと自分に言い訳せず、被害者の身になって傷つくことのできる柔らかい心を持っていたこと」と書き、戦争に抵抗し続けるためには「強さ」よりも「傷つくことのできる心」が大切だ、と説く。すぐれた指摘だと思う。

信じることのできる言葉を

この日の紙面では、偶然「記者の目」欄にも福岡さんの記事「国交省は川辺川ダムを中止せよ」が載った。写真で見る限り、私と同年輩のようでもある。ネットで検索すると、何冊か本も出しておられ、どれも興味深い内容。熊本出身で福岡勤務というのもいい。

事件から70年以上が過ぎても「どこの誰がやったか地元ではすぐわかるから、取材を拒否されてばかりだった」という記事中の弥生さんのコメントは、こうした取材の難しさを雄弁に物語っている。取材者の努力にもかかわらず、同じ事情で公にされないままの事実が他にも無数にあることは言うまでもない。

新聞を読んでいると、政財界の表舞台にいる人のコメントは山のように出て来る。小泉「改革」などは典型だが、ウソを、と言って悪ければ空虚さを美辞麗句で塗り固めただけのそれが多いのは確かだ。政局の過熱の中でこそ、本当に信じるに足る言葉がもっと欲しい、と痛感する。福岡さんのような記者を、読者の皆さんにも探していただければ。

(2008/11/10)



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