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反貧困ネットワークとは
 日本初の貧困問題に幅広く取り組むネットワーク。多様な市民団体・労働組合・法律家・学者諸個人が集まり、2007年10月に発足した。(以下、10月19日集会宣言より)
 「いま、日本社会は大きな岐路に立っています。労働者をいじめ続けるのか、人間らしい労働を可能にしていくのか/社会保障を削り続けるのか、人々の命と暮らしを支える社会にするのか/お金持ちを優遇し続けるのか、経済的に苦しい人たちへの再分配を図るのか? 私たちの選択は決まっている。私たちは、人間らしい生活と労働の実現を求める。」
反貧困ネットワーク

特集:反貧困キャラバン 「反貧困」合い言葉に世直しイッキ!

反貧困キャラバン-垣根を越えて繋がろう

人が人らしく生きられない、命よりもお金や効率が優先される、貧困が広がる、そんな世を直そう! 一人一人が声を上げ、仲間を増やし、守られる空間をつくり、一人じゃないことを確認し、相互に垣根を越えてつながっていくことで直そう! 人間らしい生活と労働の保障を求めてつながろう!と全国で反貧困キャラバンがとりくまれました。

10月16日、府立労働センターで行われた反貧困キャラバン・大阪集会で障がい者の自立と完全参加をめざす大阪連絡会議・議長の楠敏雄さんは、「障がい者が労働から排除され常に生活破壊の危機に立たされてきた歴史に加えて、『自立支援』の名の下に貧困化がさらに進んでいる」」と報告しました。

反貧困キャラバンとは、反貧困ネットワークがよびかけて、夏から秋にかけて全国47都道府県で行われたキャンペーン活動です。10月19日、ゴールの東京・明治公園で「反貧困 世直しイッキ大集会」が開催され、2000名が参加しました。今回は、貧困問題に焦点を当てて、障がい者の生活を見直します。(編集部)

見えない貧困

「貧困の最大の問題は目に見えないこと」と湯浅誠さんは言います。湯浅さんは、ホームレスの自立生活サポート活動に取り組むNPO「もやい」の事務局長。2000人を超える生活保護受給の交渉に立ち会い、究極の貧困である野宿の現場から、日本の貧困を分析し社会的に訴えてきました。

湯浅さんは、「貧困」を所得や貯金がないというだけでなく、「溜め」のない状態と考えています。「溜め」とは、溜池の「溜め」です。大きな溜池を持っている地域は、多少雨が少なくても慌てることはありません。その水は田畑を潤し、作物を育てます。逆に溜池が小さければ、少々日照りが続くだけで深刻なダメージを受けます。

このように「溜め」は、外界からの衝撃を吸収してくれるクッション(緩衝材)の役割を果たすとともに、そこからエネルギーを汲み出す諸力の源泉です。

「溜め」の機能は、さまざまなものに備わっています。その一つがお金です。十分なお金(貯金)を持っている人は、たとえ失業しても、その日から食べることに困ることはありません。当面の間そのお金で生活できるし、落ち着いて次の仕事を探すことができます。このとき貯金は「溜め」の機能を持っている、と言えます。

「溜め」は、有形・無形の様々なものがその機能をもっています。頼れる家族・親族・友人がいるというのは、人間関係の「溜め」です。また、自分に自信がある、何かをできると思える、自分を大切にできるというのは、精神的な「溜め」です。貧困とは、このようなもろもろの「溜め」が総合的に失われ、奪われている状態だと湯浅さんは言います。

「貧困が見えにくい」というのは、人間関係や自信といったお金には還元できない「溜め」の背景が見えにくいということです。貧困から脱するには、様々な「溜め」をひとつひとつ再建していくことに他ならないからです。

ところが日本政府は、貧困の存在すら認めていません。貧困者の人数調査もしていないのです。私たちは、貧困がすぐ近くにあるという現実に目を向けると同時に、当事者の状態を想像力を働かせて理解しようとする姿勢が重要です。

障がい者の貧困

楠さんによると、政府が認定している障がい者の数は、約713万人。最近増えているのは、精神障がい=うつ病・統合失調症などの人々です。しかし中途障がい者や一見普通の生活をしているように見えてしまう「発達障がい」の人々は、障がい認定が受けにくく、障がい基礎年金や生活保護の対象外に置かれています。

こうした人々は、社会とのコミュニケーションが図りにくく、孤立していて就職もできません。このため生活は、高齢の親の年金への依存を余儀なくされ、一家心中のケースも相次いでいます。経済的にも人間関係としても「溜め」が総合的に失われ、奪われている状態です。

楠さんが最近相談を受けたケースでは、知的障がいの療育手帳を持つ本人と精神障がいの兄・発達障がいの姉、そして78歳の父親あわせて4人が、父親のわずかな年金と兄の非定期な賃金収入だけで、2間のアパートでの生活を余儀なくされていたそうです。

楠さんらの助力で生活保護が受給できるようになりましたが、社会保障費の削減は、セーフティネットからこぼれ落ちる人をたくさん生み出しています。713万人の認定障がい者に、こうした人々を合計すると、1000万人以上の障がい者あるいは社会的な困難を抱えている人がいるのが現実です。

しかしこのうち、就職したり障がい年金も含めて安定した生活が送れているのは、約35万人。その他生活保護で暮らしている障がい者を含めても70〜80万人しか安定した生活が送れていない現実があります。

入部香代子さんも、働く場から排除されてきた障がい者の長い歴史を指摘します。働こうと思えば、何らかの介護や援助がいるので、労働の仕組みや考え方を変えないかぎり、貧困から抜け出ることは困難だと考えています。また充分な介護が保障されていないために親や家族に経済だけでなく精神的にも依存せざるをえず、「意欲の貧困も大きな問題だ」と指摘します。

垣根を越えてつながろう

「団体の枠を越えて、みんなが団結して立ち上がる必要がある」と、楠さんは強調します。自立支援法反対運動では、東京で15000人の集会を成功させ、大阪でも3500人が集まるという、かつてない集会となりました。立場や考え方や団体の違いも超えた横断的な集会となりました。反貧困運動も今、課題や団体の枠を越えた大きなつながりができつつあります。

米騒動から90年。雇用市場では、「現代の奴隷労働」とまで言われるような非人間的な労働が広がり、働いても食べていけない状態が広がっています。労働市場で生きられず、社会保障もない人たちは、結局どんな労働条件でも働かざるを得ず、それがまた労働条件の切り下げに利用される、という悪循環を招いています。

労働運動も障がい者解放運動もジェンダーフリー運動も「反貧困」という合い言葉でつながり、世直し運動へと発展する芽ができつつあります。

(2008/12/10)



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