新聞の作り方-激動とともに迎えた新年- 石塚直人
年越し派遣村 役割担ったメディア
2009年が明けた。華やいだムードは乏しく、重苦しさに包まれた正月。メディアで注目を集めたのは、解雇されて住宅を失った労働者のため、大晦日から東京・日比谷公園に開設された「年越し派遣村」だった。
実行委員会が想定していた来場者は150人だったが、「暖を取るため入った電器店のテレビ」などで見て合流する人も多く、2日には300人を超えたため厚労省に施設を開放させ、4日夜には翌日以降も一定期間泊まれるよう、都内に500人分の建物を確保した。
運動が大きな成果を上げた背景に、報道の力があったことは間違いない。記者たちは実行委だけでなく来場者からも取材し、「50代男性が70代の母親とともに野宿していた」「元日に自殺を図った46歳男性がここで再起を誓った」などと伝えた。「労働者を簡単に切ることができない法律を作って」(滋賀・54歳)などの声もまとめた。
薬害その他の被害者による提訴は別として、集会やデモに代表される社会運動がこれほど広範に、しかも好意的に取り上げられたのは久しぶりだ。朝日や毎日だけでなく、長く政権の旗振り役だった読売まで「新自由主義」批判に舵を切った。取材を通じて、記者の社会を見る目も変わっただろう。
米国型経済から転換の流れを
広島労働局長が1月6日、連合広島の旗開きで「労働者派遣法の改正を止められず、申し訳なかった」と謝罪したことも、同じ流れの中にある。一部報道によれば、局長は当時この問題の担当ではなかったが、「だれかが職を辞してでも止めるべきだった。これに触れずに大きな顔であいさつはできない」などと後で報道陣に語った。エリート公務員の矜持に感銘を受ける一方、同じ思いの職員が各地で頑張っているだろうことも感じさせた。
「何とかせねば」との意気込みを、さらに進めたい。トヨタやキヤノンなど日本を代表する大手製造業16社の内部留保が「08年9月末で6年半前から倍増し、空前の33兆円に達した」と、共同通信は12月23日、自社集計をもとに報じた。しかも減益が必至なのに配当は同じか、増やすつもりの企業が多いという。
同様の指摘は、共産党の「赤旗」などが繰り返している。米国流の株主優先主義のためとはいえ、それでこれだけの大量首切りが許されていいのか、は別の問題だ。欧州の労働者保護つまり企業規制の法制など、日本が学ぶべきものはいくつもある。「トヨタだって大変なのだから」などと簡単に諦め(騙され?)るのは、まだ早い。
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国内の激変と並行して、パレスチナ・ガザでは年末からイスラエルの侵攻が始まった。1月6日には国連機関が設けた学校が砲撃され、多くの犠牲者が出た。ホロコーストの再現とも言うべき悲劇の、1日も早い終結を望みたい。
(2009/02/07)