吹田の生き物と人I-消えたキツネ 高畠耕一郎
冬になると、吹田市内にあった大手保険会社の社宅地にいたキツネの家族を思いだします。その場所は、2006年には大きなマンションと一戸建て住宅地に変わってしまい、その後キツネの姿は見えなくなってしまいました。
2000年秋に、私が勤務していた中学校区の社宅地にキツネが出ているという噂を聞いたことが始まりでした。その時の生徒に聞くと「学校の帰りに見た」とのことでした。
そこで、直接確認するために、早朝6時頃に現地に行くと、すでに、犬を連れた散歩者が柵越しに見ていて私もそれに加わりました。2匹のキツネが15b先にいるのです。感動しました。その散歩者に聞くと、キツネは5〜6年前から早朝によく見かける。時には、餌をやると至近距離までくることもある。時期によっては子ギツネも出てくる。というびっくりするような話でした。
キツネの生態
キツネは、大阪では目撃情報も大変少なく、大阪レッドデータブックによると準絶滅危惧種(存続基盤が脆弱な種)に指定されています。吹田市は人口35万人、大阪府で7番目に大きな都市部ですのでキツネの生息・繁殖は大変貴重なことです。
キツネは、冬場に子どもを2〜7匹産み育てます。 約10ヶ月で大人になり、若いオスは、10〜11月頃なわばり外へ分散していきます。前年生まれのメスがヘルパーとして、母親の子育ての手伝いをする母系社会なのです。寿命は最長でも10年、1歳になるまでに60%以上が死亡すると言われています。
巣穴を崖のような斜面に作ります。吹田でも10年ほど前に、私たちが千里北公園水遠池横の斜面地にキツネの巣穴を見つけ、吹田におけるキツネの存在を初めて明らかにしたのでした。
キツネ保護を交渉
私が所属する吹田自然観察会で討議し、会として吹田市長宛てに「吹田に生息する野生キツネの保護について」(2001/1/10)を提出しました。
内容は、@吹田市として野生のキツネの生息確認調査、A吹田市内で野生のキツネが生息し続けることができるよう、動物の専門家と協議しつつ、その営巣地や、採餌・繁殖の環境確保を要望しました。
市長名での回答は、@キツネの生息確認については、現在、専門的知識を有する社団法人大阪自然環境保全協会と協議中、Aキツネの生息場所の確保については、要望書中の生息場所は民有地であり、その用途の決定に市としての強制力を発することは困難だが、キツネが準絶滅危惧種であることに鑑み、可能性の道を検討したいというものでした。
さらに次の年、驚いた事に、キツネ情報が紫金山・片山公園などでもあり、ここでも子育ての噂を聞いたのです。写真にも撮られていました。
大手保険会社のキツネの噂は徐々に広がり、地元のテレビ局「吹田ケーブルテレビ」でも取り上げられ『キツネの棲む街〜キツネを取り巻く環境と共存への道〜』(15分の特集番組)として何回も放映されました。この番組には私も出演しました。また、この番組は全国ケーブル大賞の最優秀総務大臣賞を受賞し、NHKでも放映されました。
また、2002年7月には、地元の人たちと協議の上、この社宅地の所有者である大手保険会社にも以下の3点の要望を提出しました。
@キツネが生息、繁殖していますが、その裏付けになる科学的な調査。
A現在生息しているキツネの個体保護と、その生息環境の保全。 B貴社所有地をマンション建設を目的として第3者に売却するのではなく、貴社の所有地として緑豊かな環境地として整備することです。
要望書の回答(社長名)が不十分なものだったので、市役所も間に入り、半年に渡って何回も話し合いが行われました。その結果、@キツネ調査は行う、Aこの土地を第3者に売却する場合は、キツネ調査結果を正確かつ誠実に当該売却先に伝える、との結論になりました。
このようなやりとりがありましたが、結局この社宅地は、売却されマンションと多くの一戸建て住宅地となり、キツネの姿は全く消えてしまいました。
人間の都合で生息地を奪ってしまう結果となり、非常に残念です。
(2009/02/11)