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「発言記憶にない」と開き直った漆間官房副長官

新聞の作り方--大報道の陰で消えたニュース 石塚直人

民主党、小沢代表秘書の逮捕

民主党・小沢代表の公設秘書が政治資金規正法違反容疑で逮捕された(3月3日)事件が波紋を広げている。

主要メディアの世論調査によれば、小沢氏の代表辞任を求める声は各社とも過半数を超え、上げ潮ムードに乗ってきた民主党は一転して窮地に立たされた。もっとも、同じ手法で西松建設からカネを集めてきた政治家は自民党にも多く、総選挙を間近にしたこの時期に小沢氏陣営だけが逮捕されたことに、恣意的な印象は拭えない。 そうした印象をさらに高めたのが、漆間官房副長官の「自民党には波及しない」発言。最初、各紙は「政府筋は」の主語で報じたが、異例のコメントとあって反響が大きく、後で官房長官があえて発言者を公表する騒ぎとなった。

3人の官房副長官のうち、2人は国会議員。漆間氏は唯一の官僚出身者で、閣議の案件を決める事務次官会議を主宰する。元警察庁長官だけに、検察とのつながりによる情報と受け取られても仕方がない。漆間氏は釈明の記者会見で「記憶にない」「言っていない」と繰り返した。麻生首相も最初は「誤報」と言い切った。

これに対し、各社の対応は概して生ぬるい気がする。毎日、産経、東京新聞などは10日の社説で漆間氏や首相を批判したが、産経のように「(捜査の)厳正中立を疑わせたから」では的外れだろう。内閣記者会の「懇談」でメモや録音は禁止とはいえ、記者は終了後すぐに内容をメモにする。各社の記者全員が聞き違えることなどあり得ない。それをウソだと公言されたのは、新聞社の名誉に泥を塗られたと同じだ。

「激怒しない記者は筆を折った方がいい」と、元レバノン大使・天木直人氏のブログにあった。少なくとも漆間氏が罷免されるまで、批判の矛先を緩めてほしくない。

「何を報じるか」は「何を報じないか」

例としては比べ物にならないけれど、私も地方都市での取材で、市長から「ある新聞がウソを書いて」と記者会見の場で公言されたことがある。「どこがウソなのか、具体的に指摘して下さい」と大声で返したのは当然だ。最後は秘書が市長を制止し、発言はなかったことにされた。

今回の逮捕、「自公政権延命のための小沢氏狙い撃ち」が仮に言いすぎとしても、この大扱いの陰で消えたニュースを考えれば、その本質はわかる。派遣切りに代表される雇用問題、「かんぽの宿」のオリックス売却問題の2つだけを挙げよう。これらが消えてほくそ笑んだのは誰か。限られた紙面、放送時間の中で何を報じるかは、換言すれば「何を報じないか」でもあるのだ。

(2009/05/15)



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