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新聞の作り方--憲法記念日の社説はどう作る? 石塚直人

憲法記念日の5月3日、各紙の社説は例年と様変わりした。派遣切りや内定取り消しなどで人間がモノのように使い捨てられる中、「健康で文化的な最低限度の生活を営む」生存権を保障した25条に注目が集まったからである。

とくに地方紙。共同通信社のウェブサイトから加盟社の社説を調べたところ、北海道新聞、東奥日報、神奈川新聞、北日本新聞、神戸新聞、中国新聞、高知新聞など半数以上が25条に言及した。年越し派遣村の村長を務めた湯浅誠さんのコメントが多く引用され、「社会全体の底が抜けそうな時代(中略)、再生の鍵は憲法の精神に立ち返ることだ。そこに規定された平和と民主主義こそが、人が人らしく生きる土台だからだ」(新潟日報)など、9条と並べて論じた社もあった。

これが全国紙では一変する。同じトーンの社説は朝日だけで、改憲論に立つ読売、日経、産経は、国民投票法に基づく憲法改正準備の加速化や集団的自衛権の解釈見直し、9条改正などを掲げた。毎日も駐日米国大使に起用されるナイ教授の「ソフトパワー論」をテーマにした。

4紙の社説に、貧困や失業は全く出てこない。「国政の最大課題はそうした個人の幸不幸ではなく、国の安全保障である」との意識が透けて見える。それは政府・与党の大勢とも重なり合う。

東京を中心に取材する全国紙は政府に甘く、そうでない地方紙は批判的になりがち、とはよく指摘される。逆に地方紙は概して地元の権力に近く、どちらがいいかは簡単には言えない。ただ、これほど庶民生活が脅かされた年の憲法記念日の社説なら、新聞が民主主義擁護を標榜する限り、25条以外に書きようがないはずだと私は思う。

(2009/06/10)

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