新聞の作り方--読者の意見交流 今も昔も 石塚直人
互いの共感を育む読者投稿欄
記者になって30年、新聞を全く読む気になれない日が来るとは夢にも思わなかった。昨年秋以来の心身の不調がひどくなり、うつ病と診断された今年1月のことである。会社を2ヵ月休み、自宅で療養した。
異動で3年半ぶりに多忙な編集局に戻ったほか、母を亡くすなど複数の要因が重なっての発病で、新聞の活字は見るだけで気が滅入った。それでも社会の動きは気になる。インターネットでニュースを読むうち、いくつかの固定欄に目を通すのが習慣になった。
最も気分転換に役立ったのが、読売新聞ウェブサイトの「発言小町」。恋愛や嫁姑関係、職場の問題など、言わば女性の井戸端会議で、話題によっては1日で200通もの反応があり、「人間の考え方はさまざまだが、多くはそれなりに良識の持ち主」とごく自然に感じさせてくれる。月間6000万件のアクセスがあるという。
「兄の不始末にもかかわらず、身内びいきで義姉を責めてしまった」「彼の浮気写真を見て動転しています」など永遠のテーマに交じり、「8歳の子どもがいて単身赴任4年目、たまに帰っても居場所がない感じでつらい」という33歳女性の嘆きは、現代ならではのもの。「よその子が我が家に勝手に入り込み、うちの名を騙って商店で買い物をしている」には驚いた。「男性からのトピ」コーナーもあり、考えさせられることが多い。
ネット上の意見のやりとりは、匿名のため無責任で破壊的なものになりがちだ。「発言小町」は編集部が投稿の内容をチェックし、明らかに悪意や中傷とみられるものは除いている。新聞社は昔から、報道の一方で投書欄など「読者の意見交流の場」作りに努力してきた。周囲から孤立して精神を病む人が急増している現代、互いの共感を育むネット上での試みは、これまでにも増して貴重だろう。
(2009/08/10)
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