「嫌中国」キャンペーンにやりきれなさ -石塚直人
中国船衝突事件の映像流出
尖閣諸島沖で中国漁船が日本の巡視艇に衝突した事件の映像が、インターネットで突然公開され(11月5日)、神戸海上保安部の巡視艇航海士(43)が「自分がやった」と名乗り出た(同10日)。
9月7日に衝突事件が起きて以来、マスメディアでは中国の覇権主義と民主党政権の「弱腰・無定見」外交への非難の嵐が続いてきた。同24日の船長釈放の後、中国側は対日姿勢をやや軟化させたものの、菅政権はその後も中国に配慮してビデオの一般公開は控え、11月1日に国会で予算委理事ら約30人に7分弱の編集版だけを公開した。その直後に44分近い映像が流出したのだから、政権の面目は丸つぶれとなった。
航海士は自首に先立ち、読売テレビ(大阪市)に自ら電話をかけ、神戸市内で記者の取材に「自分がそうしなければ(映像は)葬られてしまう」「国民は映像を見る権利がある」と述べる一方で、周囲に迷惑をかけることへの謝罪や失職への不安も語ったという。12日午後現在、任意で警視庁の取調べを受けているが、彼に対する世論の同情は強く、捜査当局が逮捕を断念する可能性も指摘されている。
一面的な報道・解説で進む読者離れ
衝突事件以来、テレビのワイドショーなどで繰り返されてきた「嫌中国」キャンペーンに、私は数年前の「嫌韓」同様のやりきれなさを感じる。尖閣諸島に自衛隊を、といった議論は、何かあれば再び戦争もする、と覚悟の上のことなのか。
「毅然として」漁船船長を逮捕しながら相手の強硬姿勢にぶつかればすぐに折れ、ろくな抵抗もできない日本外交の「戦略の不在」、露メドベージェフ大統領の国後島訪問(11月1日)も尖閣情勢で日本が軽くみられたため、という各紙の分析はその通りだ。ただ、そこで日米同盟の再構築だけを強調するような報道・解説が続くのは、あまりに一面的に過ぎる。これは米国頼みで解決できる問題ではない。10倍の人口を持つ隣国を経済力で圧倒してきたこと自体が極めて異例であった、と腹をくくり、ゼロから外交を練り上げていく努力をすべきなのだ。
イラク戦争に反対してレバノン大使を追われた天木直人氏は、11月3日のブログで「情報が上がってこない」と嘆く菅首相、駐露大使を「召喚した」前原外相を取り上げ、そのふがいなさを明確に指摘している。いずれも大手メディアの報道をもとにした論評だが、その後1週間の分も含め、非常に参考になった。こと外交に関する限り、十年一日のごとく米国追従型の評論家しか起用しない現状では、読者離れはさらに進む恐れがある。
(2010/12/10)
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