特集:働くことで人生が変わる
ようやく動き始めた精神障がい者就労支援
「仕事を諦めていた患者さんの人生が変わるんです」―JSN(ジョブ・サポート・ネットワーク)代表理事の田川精二医師は、就労支援の意義についてこう語ります。JSNは精神障がい者に特化をした就労支援を行っているNPO。田川さんら6人の精神科医が、「かけがえのない人生を患者さんたちはどう生きたいと願っているのか?」を問うなかから設立されました。JSN門真にお邪魔して、統括所長の金塚たかしさんに、設立の経緯・支援の内容などを聞きました。(文責・編集部)
誰だって「働き続けたい」
編集部: 設立の経緯は?
金塚: 門真市で精神科の診療所を開業している田川精二医師(現理事長)も以前は、患者の就労支援については実は消極的だったそうです。病状が良くなると、ほとんどの患者さんは、「もう働いてもいいでしょうか?」と聞くそうです。そんな時も田川医師は、「病気の療養という大仕事をしているのだから、急ぐ必要はないですよ」と助言していたそうです。当時は、病気を隠して就職する他なかったので、社内の理解も得られず、仕事のストレスとプレッシャーで病状が悪化し、結局潰れていくというくり返しを見てきたからです。
そんな田川医師を変えたのが、患者アンケートでした。診療所に通院する統合失調症患者の8割以上が、「仕事をしたい」と思っていることがわかり、大阪精神科診療所協会の就労調査アンケート(2004年)でも、同様の結果が出たのでした。
これほどの人が働きたいと思っているのに、就労支援を行う機関がほとんどない現実を変えたいと、5人の精神科医と共に2007年にJSN門真を設立しました。08年には、茨木市にも開設。今年4月には、新大阪にも新設し、合計3ヵ所となります。
編:JSNの目的は?
金塚: 大きく2つあります。第1は、働く意欲をもつ精神障がい者の就労を支援することですが、「働き続けること」に主眼をおいています。精神障がい者の就職率(障がいを非開示での就職)は、知的障がいや身体障がいに比べて高いのですが、離職率もとても高い現実があります。精神障がい者は一見してわかりづらいですし、採用面接では真面目そうに見えます。でも、いざ仕事となると「失敗してはいけない」と緊張して、余計に失敗してしまいます。つらくても「つらい」と言えず、無理を重ねていくうちに、朝起きられなくなってやめざるをない。こういうケースがほとんどで、就職・離職を繰り返すと、「自分はだめな人間だ」と落ち込みも激しくなるのです。
病気をオープンにして働き続けることで自信を回復し、社会の中で存在意義を自覚することで元気になり、たくましくなっていく方がたくさんいらっしゃいます。
もう一つは、精神障がい者のイメージを変えることです。精神障がい者は、「何をするかわからない」「恐い」というイメージが広く流布されていますが、事実は違います。精神障がい者の犯罪率は、一般のそれと比べてはるかに低いことが政府統計によっても明らかになっています。そんな誤ったイメージを、働く姿を見てもらうことで変えていきたいと願っています。
(2011/02/10)
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