年末大型連載と「社説」 -石塚直人
家族の変化や労働現場の混乱
この年末年始、朝日と毎日の紙面作りはこれまでと全く違っていた。朝日は12月26日に大型連載「孤族(こぞく)の国」を始めた。毎日が「働乱(どうらん)の時代」をスタートさせたのは31日、何と大晦日だった。
元日の紙面で特ダネを競い合い、大型連載を始めるのが、長く続いた新聞業界のスタイルである。07年2月号でも少し触れたが、この連載では「新しい年」をこんなものにしたい、という取材陣の期待と意気込みを凝縮する。秋から準備を始め、年末は記事の仕上げに大車輪、というのが普通だ。
両紙は元日から別の連載も始めているが、本来はその日からであったものをわざわざ早めたのは、「何か思い切ったことをしないと 読者に見放される」という危機感があってのことだろう。毎日が31日を選んだのには、ライバル社に触発され、意外性をさらに高めようとした側面があったかもしれない。
「孤族」も「働乱」も、両紙の造語である。「孤族」には、夫婦と子ども2人という標準世帯が過半数を割り込み、単身世帯が急増していることによる家族の変質が、「働乱」にはグローバリズムの進展に伴う経済社会と労働現場の混乱が表現されている。記事はそれぞれ象徴的な現場と証言を丹念に拾い集め、訴求力は強い。とくに「孤族」が強調する「人のぬくもり」は、クリスマスに 始まり年明けから全国で加速した「伊達直人」名による児童施設へのプレゼントにも真っすぐにつながっている。
財界の言い分を丸呑みした社説
紙面にこんな記事があふれていれば、新聞も読みがいがある。が、首相の年頭会見(4日)を受けた全国紙5紙の社説が「消費税増税と環太平洋連携協定(TPP)参加」で筆を揃え、「有言実行を」と迫ったのには落胆させられた。朝日の見出しも「本気ならば応援しよう」で、主張は読売や日経と変わらない。
賃金が下がり続ける中での消費税増税は、無数の「孤族」たちにさらなる悲劇をもたらさずにはいないだろう。この10年で大企業の内部留保だけは急増(投資有価証券で100兆円増、山部悠紀夫・元神戸大教授による)しているのに、それを吐き出させる工夫は一切なく、財界の言い分を丸呑みしての増税論は連載の精神を裏切るものではないか。TPPを巡っては、当然ながら地方紙に批判的な論調が強い。
(2011/02/10)
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