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エジプト民衆革命にみる正義なき「強さ」の脆さ -石塚直人

未明の「大統領辞任」 本社は大忙し

在任30年に及んだエジプトの独裁者、ムバラクが辞任した(2月11日)。前日に自らの演説で「9月まで職にとどまる」と豪語したものの、最後は18日間にわたって首都を埋めた反体制派のデモに押し切られ、権力の座を明け渡した。

全国紙の大阪本社は販売店までの輸送時間をにらみ、3種類の朝刊を作る。夕刊のない地域向け、夕刊地域の中で遠隔地向け、大阪、神戸、京都市など都心向け。副大統領がこのニュースを発表したのは、日本時間の12日未明だった。2番目の紙面の印刷が始まり、3番目の紙面の締め切りまで1時間そこそこ、という時刻だ。

国政選挙を除けば、これほど忙しい作業は滅多にない。各社とも一報と同時に、直前まで一面トップだった記事をどこに移すか、その面に組んでいた記事をどう削るか、に追われたはずだ。現地から東京・国際部経由で1面用原稿が届いたのは、ふだんの締め切り時刻を過ぎていた。外電面などの関連記事も手直しが必要で、誰もがあわてているからミスも多い。私はこの日休みだったが、紙面のチェックは大変だったろう。

各紙の12日朝刊最終版は、それぞれ大きな写真を何枚も使い、徒手空拳の「民衆革命」を好意的に報じた。先のチュニジア同様、インターネットが原動力になったこと、軍による暫定統治には不透明な部分が残り、国の再建が多難であること、周辺国への影響は必至で、米国が対中東政策の見直しを迫られていること、などの指摘もほぼ共通する。

イスラム観の修正に繋がるか?

一連の報道で気になったのは、最大野党勢力「ムスリム同胞団」の扱い。NHKはテロ集団を連想させる「イスラム原理主義」を頭につけて繰り返し報じ、坂井定雄・龍谷大名誉教授らは「誤解を与える」と批判した。

新聞は概して「穏健派」をかぶせるなど工夫はしているものの、福祉や教育の取り組みで民衆の支持を集めてきた同胞団の実態は、まだ日本でほとんど知られていない。

国際政治について解説する際、日本のメディアはまず米国当局者の見方を援用する。世界のどの地域のことであれ、米国はこう見ている、とつけ加えずにいられない習性は、やはりおかしい。とくにイスラムから過激派を連想する人たちの誤解は、イラク戦争以降、彼らの一方的な主張が無批判に垂れ流されてきたのが原因だ。同胞団についての理解が進めば、日本人のイスラム観、ひいては世界観の改善につながる。

(2011/04/22)

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