当事者エッセー:面接日記 -佐野武和
面接もつらいよ
24年前、健常者のスタッフは女房一人きりで総勢6名の小さな作業所として出発した。現在20名を越えるスタッフと、40名近い当事者メンバーで60名の所帯になった。
困ったことに、毎年何人かのスタッフの退職者があって、求人活動は常態化しているといっていい。今年度も緊急雇用対策の制度を活用して2名を募集した。以前、集団面接に30名近い応募があって対応に苦慮したことがあり、随時面接をこなす毎日だ。
就労支援の現場をデイサービス的に捉えたり、社会福祉士の資格活用を過度に意識したりと、なかなかこちらの思いとすりあわないで、イライラしてしまう。
先日も「老後の奉仕活動のつもりで働きたい」という高齢の求職者にあきれてしまった。現在の社会状況のなかで最低賃金を意識する「就労継続支援A型」が抱える課題は、正直甘くない。「ゆっくりの支援」をメンバーは主張し、生産量や品質管理がいやでも課せられる構造の中でもがき、模索の毎日であるからだ。面接では伝えきれないと「1日一緒に働いてみてください」と実習をお願いすることにした。
ところが結果「辞退させてください」が続出。終日実習の約束がお昼で帰ってしまう人まで現れた。
「こりゃなんだ、おいらたちの仕事を何と心得る。ええい控えおろう…」と血圧が最高に達してしまうのでありました。
障がい者の労働は権利だ
とにかく「福祉的就労」「作業所ではたらく」といった世間さまの持つイメージと現実との違いは大きい。こむつかしく語れば、「労働者性を担保すべき」だ。最低賃金は百歩ゆずって「特例の申請」を出したとしても、労働災害や休暇、組合や争議に関する権利など、障がい者の働く場は雇用契約を前提とすべきだ。
少なくとも「訓練や福祉サービスの枠組みに押し込めるのだけはやめてくれ!」と、大声で叫びたい。それでないと「作業所に仕事を!」の根拠がなくなり、労働基準法違反で障がい者を働かせている事業所に業務を発注したり委託したりと、大変な矛盾だよほんとに…。
ある青年が、母親と面接に現れた。「何をやっても失敗ばかり…」と母親。答えに困って、本人に「長期の実習からなら」と逃げたつもりであった。やがて現場の意見は「正規スタッフとして受け入れよう」ということになり、生きづらく働きづらいを葛藤していた青年がスタッフとして現在も就労を継続している。
(2011/04/25)
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