新聞の作り方83:「もう騙されないぞ」という民衆の怒り 石塚直人
ウォール街占拠した若者
米ニューヨークで始まった格差是正の抗議活動「ウォール街を占拠せよ!」が、急速に広がっている。9月17日に計画された最初のデモは小規模に終わったが、すぐに1万人規模に拡大、10月12日現在で少なくとも全米118地域に達した。15日には東京やロンドンを含む世界各地で同様の行動が行われる予定だ。
「1%の大金持ちのせいで99%の我々が苦しんでいる」。単純な訴えが若者を立ち上がらせた。参加者は公園で寝泊りしながら毎日会議を開いて当面の課題を協議し、整然と行動する。著名な俳優や知識人が相次いで賛同を表明、サービス従業員国際労組(SEIU)など大規模労組も協力し始めた。
それにしても、と改めて思う。過酷な弾圧の下、この国で公民権運動やベトナム反戦運動が闘われたのは40年も前のこと。それは私自身にも「歴史を作るとはなにか」を強く意識させずにはおかなかった。しかし、その後米国でまともな大衆運動のニュースはほとんど聞かれず、極端な格差社会を「当然」と言いくるめる狂気が蔓延していった。
朝日(12日)が引用するクルーグマン・プリンストン大教授のコラムによれば、共和党の政治家たちはオバマ大統領が昨年、金融界を批判したときと同様、この運動に「社会主義者」「反米国人」と罵声を浴びせている。知性と力で狂気をどこまで押し戻せるか。壁の厚さを承知しつつも、期待は膨らまざるを得ない。
批判力の劣化 著しいメディア
運動の背景に、チュニジアやエジプトで長期独裁政権を覆した「アラブの春」を見て取ることはたやすい。既成政党ではなくカナダの雑誌編集者の呼びかけで始まったこと、インターネットが主な武器になったことは、米国とて世界とかけ離れた存在ではないことも示した。
「もうこれ以上、騙されないぞ」という思いは、日本では「反・脱原発」を掲げる人たちのものでもある。いったん目覚めた以上、もう惰眠は許されない。原発事故の被害者に難解極まりない損害賠償請求書を送りつけて恥じない東京電力の厚かましさは、さすがに多くのメディアが批判したが、3日発表された東電の経営・財務調査委員会報告ではポイントをはずした。リストラや電気料金値上げなど数字を並べるだけで、「東電の株主・債権者の既得権益(長年得てきた利益)を守り、賠償負担をすべて国民に回す」欺瞞性(誤魔化して騙すこと)への批判を欠いた。
米国の圧力に押されて野田政権が推進を目論む環太平洋連携協定(TPP)は、 全国紙が揃って推進論、地方紙は反対論が目立つ。2月8日付の農業協同組合新聞が載せた評論家の内橋克人さんの講演(http://www.jacom.or.jp/tokusyu/2011/tokusyu110208-12482.php参照)を上回る説得力は、残念ながら全国紙のどれにも見当たらない。
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