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当事者リレーエッセイ:介護者との人間関係を作ること 鈴木 勉

障がい者への盗難事件から考える

「泥棒しほうだいやな。」老人施設の職員になった息子が夜勤に入るようになって、さらに不規則な生活になった。で、気がつけば、昼間、介護者がいる時間に家族全員それぞれの部屋で、うたた寝している時がある。無防備な我が家。それも介護者との信頼関係があるからなんやろうなぁ。

それで思い出したのだが、何年か前、知り合いの一人暮らしの障がい者が何度か盗難に遭った。泊まりの介護に入っているあるヘルパーが帰った後、決まって金品がなくなっているという。

幸い僕はそういう目に遭ったことはない。家族がいるせいもあるのだろうが、基本的にあまりたくさんの介護者が出入りするのは疲れる方なので、古くからのつきあいの専従に近い介護者と、数名の介護者で回っていることも大きいのだと思う。

支援費制度や自立支援法が施行される前は、自立している障がい者は大抵、介護者を探すのに苦労していた。介護料の出る時間数が圧倒的に少なく、それでは生活が回っていかなかったので、外に出て行って、人間関係を作り、ボランティアで介護に入ってくれる人を探すしかなかった。僕なんて気ぃ弱いし人見知りやのに、それでも障がい者団体の集会に参加して、介護者探しをすることから始めた。世間知らずの障がい者が、世間の波にもまれて自立していった。

その当時だって、ヘルパーに金を盗まれるなんて話はあったんやろうけど、僕はあまり記憶にない。金は行政からとれるだけとって、ヘルパーも障がい者も、金のないもん同士、分け合って生きてきた。

希薄になったヘルパーとの関係

支援費制度以降、介護が十分につけられるようになって、ボランティアで入ってくれていた仲間の中には、疎遠になってしまった人たちもいる。介護で喰っていけるようになって、仕事が忙しくなって来なくなった人もいる。

盗難にあった知り合いは、そんなこんなでいなくなったボランティアの代わりに、今まで付き合いのなかった事業所からヘルパーを派遣してもらっていた。希薄になったヘルパーとの関係の中で、起こったことのように思えてくるのだ。

息子が通っていた福祉専門学校では、「利用者は友達ではない、お客様だ」と教えている。介護をビジネスとしてやっている事業所の大抵は、そういう考え方なのだろう。そのおかげで自分から健常者の中に入っていって、必死こいて人との関係を作っていく努力をしなくなっていった人も多いのではないか。僕もその一人。好きなだけ引きこもっていられるもんね。

どこから派遣を受けるにせよ、自分で介護者をちゃんと選び、育て、人間関係を作っていかないと、これからもっといろんな問題が起こってくると思う。

俺も引きこもってる場合ちゃう……けど、もうちょっと引きこもっとこ。

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