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新聞の作り方86:橋本市長の労組追い出しに乗せられた記者達 石塚直人

「年明け早々、この写真だからなあ」。大阪で長く労働運動に携わってきた知人がため息をついた。1月4日の「朝日」夕刊社会面。橋下徹・大阪市長の仕事始めを紹介するトップ記事に添えられた写真では、市労働組合連合会(市労連)の中村義男委員長が腰から上を90度近く折り曲げ、正面の市長に向かって謝罪していた。

記事は、市長が労組の「政治活動」を理由に、組合事務所を庁舎内から撤去するよう求めたこと、この会談に続いて市幹部への年頭あいさつをし、記者会見で「普通なら全員クビだ」と市労連をこき下ろしたことなどを伝えた。2月議会には「組合活動の適正化」をうたう条例案も提案される。

知人は、市労連の幹部が関係者に弱腰を批判されて「(市長が)報道陣の前でないと会わない、と言うんだからどうしようもない」と愚痴をこぼしたといい、「従来の活動に改めるべき点はあるにせよ、これでは組合活動そのものを非合法・不合理と見るような風潮が蔓延しかねず、働く者の権利は失われてしまう」と強い危機感をにじませた。

幹部の愚痴からは、彼の目に記者たちが市長の手先としか映っていないことがうかがえる。とくにこの写真の印象は、まるで公開処刑だ。市長は当然そうした効果を狙ったろうし、国鉄の分割民営化以来約30年にわたり、大手メディアが公務員労組に冷たい視線を向けてきたことも事実。そこには体制側の情報操作に乗せられた記者の勉強不足も指摘できる。

労組も原点に戻って再出発を!

私は知人の思いに共感する。アジテーションのための誇張が目立つ市長の発言をそのまま引用するだけの報道は危険であり、憲法違反の疑いもある「庁舎から出ていけ」には、きちんと批判をすべきだった。全国紙では、毎日だけが識者の批判的なコメントをつけていた。

「朝日」は元日の一面で「原子力安全委員会の斑目委員長ら人が、原子力業界から5年間に計8500万円の寄付を受けていた」とスクープした。「原発とメディア」連載などで自社の恥部にも触れた検証を続けており、消費税増税の社説を書く論説委員会はともかく、編集局には気骨ある記者が残っている。それだけに残念でもある。

だがその上で、自治体トップの動きを追うのはメディアの仕事であり、写真を撮られる以上、自分がどう写るかを考えるのも委員長の責任のうち、と言うのは厳し過ぎるだろうか。あそこまで深々と頭を下げるのはおかしいし、密室での労使交渉が許される時代でもない。正当な権利は公開の場で堂々と主張し、勝ち取ればいい。

公務員労組、中でも現業部門のそれは、事務部門との身分差を闘いによって克服してきた歴史を持つ。ごみ・し尿処理などの職員が作業着も貸与されず、仕事帰りに「臭い」と言われながら待遇を改善させてきたのだ。「民間より高い」給料が次々切り下げられた今、その原点に戻って再出発するしか、独裁者・橋下氏に対抗する術はない。

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