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特集:偏見を煽る とんでもない
維新の会「家庭教育支援条例」反対!

大阪維新の会・大阪市会議員団が提案を予定していた「家庭教育支援条例(案)」は、一旦白紙撤回されました。「発達障がいは親の育て方が悪いから」という主張が大きな批判を浴びたからです。しかし、条例案の土台となっている「親学思想」は、東京都の石原知事をはじめ、君が代斉唱で口元チェックした中原校長などが進めようとしている「教育改革」の根本思想となっています。白紙撤回されたからといって安心はできません。

「家庭教育支援条例」の問題点と「親学思想」そして、こうした「教育改革」を誰が、どのような目的で推進しようとしているのか? 考えてみます。(編集部)

条例の内容と問題

この条例の問題が最も表れている点は、@発達障がいの原因を「親の育て方や愛情不足」に求めている点です。発達障がいは、脳の機能的な障がいで、予防・治癒するものではなく、親の育て方や愛情不足とも無関係です。

自閉症の息子をもつハンドルネーム「カイパパ」さんは、「くりかえしくりかえし蘇ってくる『自閉症・発達障害は親の育て方が原因である』という誤った主張。それが条例案というかたちで表に出てきたことにめまいを覚えました」とブログに綴っています。

1940年代に「自閉的な行動は母の冷淡な態度による」という「冷蔵庫マザー」説が広まり、自閉症の子をもつ多くの母親は傷つき、自責の念、罪悪感にかられていきました。この歴史が繰り返されようとしています。大阪自閉症協会の皆さんは、「科学的根拠がなく、発達障がいについての偏見を助長するもので、私たちは見過ごせません」と抗議。提案撤回の大きな原動力となりました。

この条例は、「保育、家庭教育の観点から、発達障がい、虐待等の予防・防止に向けた施策を定める」(第1章)と目的を述べています。ここにも問題があります。発達障がいと虐待は、原因も対策も全く別であるにもかかわらず、同列に扱っていることです。「発達障がいをもつ大人の会」広野ゆい代表は、「発達障がいを虐待と同列視することは人権侵害だ」と批判しています。

さらに前文で「児童虐待の背景」として「テレビや携帯電話を見ながら授乳している『ながら授乳』が8割を占めるなど、親心の喪失と親の保護能力の衰退という根本的問題がある」と書いていますが、これもこじつけです。

児童虐待の背景や要因は様々で、虐待をする親に情緒的その他の問題があるとしても、「ながら授乳」と児童虐待の相関性を検証したデータなどありません。

条例案は、乳幼児期の愛着形成の不足が軽度発達障がい等の要因で、それが「虐待・非行・不登校・引きこもり等」を招くという科学的根拠のない因果関係を前提にしています。

そして「伝統的子育てによって発達障がいは予防・防止できるので、子育ての知恵を親に学習させるべし」と定めているのです。

親をさらに追い詰める「親学」

これには、多くの保護者から不安や疑問の声が出ています。少し紹介します。

―虐待、非行、不登校、引きこもり等」は単に愛情の問題でしょうか。大人にも子どもにも世知辛く生きにくい社会そのものに問題があることを、多くの保護者は気づいているはずです。親を教育するなどと言う前に、子育てしやすい労働環境に恵まれた大阪市と大阪府にするのが先ではないでしょうか。(3児の父)―

―子育てはしんどいものです。やってみたら分かります。条例を作って、親に圧力をかけるなんて、しんどい所にさらに重い十字架を背負わす事です。親がよりいっそう孤独になり、孤立するだけではないでしょうか。(中・高校生の母)―

―子育ては親だけではできません。親だけで「失敗の許されない」「完璧な」子育てをすることが、「世間」から要求されているような、そんな圧力を感じさせるようなことをしないでください。あなただけの責任ではないよ。しんどいときは助けあって、みんなで子育てしていこうよ! そういうことを、身近な人たちから、本気で声をかけあっていきましょうよ。―

現在の子育てや少子化問題は、周囲の支援がないまま親(特に女性)に過大な責任が負わされていることにあると考えられます。「母乳がいい」のは事実でしょうが、「母乳でなければダメ」、「母乳を与えない母親は失格」、「母乳でなければ育児とはいえない」というエスカレートした発言がなされ、母親への強い精神的圧迫となっています。

「保育所に預けられる子供はかわいそう」という圧力も同じです。「保育所に預けなければいけないような親は子供を産むな」、「仕事と子供のどちらを選ぶのか。両立したいなどというのは子供への虐待」というような極端な意見も散見されます。

この条例は、「親を鍛え直す」という発想ですから、地域社会が親を支援するような内容はありません。地域社会が親の重い負担を理解し、バックアップし、時にはゆっくり親を休ませるような支援こそ必要なのです。にもかかわらず、「親の親力が衰退しているから、伝統的な子育て思想に基づいて親を鍛え上げよ」という提言となっています。

親学思想とは?

「家庭教育支援」を謳うこの条例は、「保護者への支援」として@「親の学びの手引き書」を配る、Aその「学習記録」を「母子手帳に記載する」、B定期的な乳幼児検診のときに「講習」を行なってその「学習記録」を母子手帳に残す、さらにCすべての保育園、幼稚園等で、年に1回以上、保護者会等での「親の学び」カリキュラムの義務化などを行うとしています。条例が謳う「支援」とは、高橋史郎氏らが推進している「親学」を全ての親に浸透させることです。

親(特に母親)は、それでなくとも「これで足りているのだろうか、まだ足りないのだろうか」と不安になるものですが、発達障がいのある子供の親に対して、「育て方が悪い」「親心が足りない」「親の保護能力が衰退している」などと言い放つ「親学思想」は、現実を見ようとしない伝統主義者による言葉の暴力です。

条例で「発達障がいの子どもは、予防に失敗された存在であり、その親は子育てに失敗した親である」と宣言するような行政のなかで、障がい児(者)がいる家庭は、地域から排除されていくことになります。

橋下大阪市長は、「近現代史を学ぶ施設を大阪府市に設置する」と言い出しています。これに関して市長は、「新しい歴史教科書をつくる会」や元会員らによる教科書づくりに携わった「有識者」らに意見を聴く考えを示し、「歴史観や事実認定で意見が分かれる近現代史について『子どもらが両論を学べる施設』をつくる」のだと言います。

しかし、「両論併記」といえば聞こえがいいのですが、実は「天動説と地動説を対等に教える」ようなものです。

橋下市長が塾長を務める維新政治塾に参加する男性は「受講生は全体的に保守の色が強い」と指摘。所属する班のグループディスカッションでは「徴兵制」がテーマとなり、25人中20人が「賛成」と答えたそうです。

維新政治塾が選挙で大勝したら、日本はどうなるのでしょうか。

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