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新聞の作り方90:4番目の権力に転落するマスメディア 石塚直人

くっきり分かれた原発再稼動問題

黄金連休後半の5日夜、国内原発50基のすべてが止まった。翌6日の全国紙各紙の朝刊は揃って一面トップで扱い、総合面や社会面に関連材を入れたが、脱原発の朝日・毎日と原発再稼働を説く読売・産経とでくっきりと論調が分かれた。

原発を巡る歴史を批判的に振り返り、「二度と同じ失敗は許されない。安全を成長の犠牲にしないことだ」と一面で脱原発を強調したのは毎日の倉重論説委員長。朝日の竹内編集委員は、「原発事故で人々の意識は変わり、政府や電力会社の言い分に疑いを持ち始めた」とし、国民の手にエネルギー政策を取り戻そうと呼びかけた。

読売は、東京本社の丸山経済部長が「政府の拙劣な対応がこの事態を招いた」とし、「このまま再稼働がなければ夏の電力は足りない。原子力を捨ててしまっていいのか、もう一度考えたい」と結んだ。産経は社説に当たる「主張」で、「原発ゼロは自らの息の根を止める行為に等しい」と述べ、原発再稼働を急ぐよう求めた。

紙面全体で目につくのは、読売・産経が例えば夏場の電力の受給見通しについて、政府や電力会社の主張だけを根拠に議論を進めていることだ。朝日が環境エネルギー政策研究所(関西でも電力は足りる)や日本総研(不足分は関西電力試算の半分)のそれも紹介しているのとは対照的。よほど的はずれならともかく、「別の見方」の存在さえ読者に知らせないのでは、権力側の広報機関と言われても仕方あるまい。

ジャーナリズムの条件

ジャーナリズムは本来、この社会が多元的な価値観によって成り立つことを自覚し、権力側の言い分には警戒心を、少数意見には傾聴する姿勢を持って臨むべきものだ。電力会社の言い分をそのまま垂れ流すやり方こそ、福島の原発事故を招いた原因のひとつだったはず。朝毎読産の部数(極めて大雑把な比率は4・2・・1)を考慮するとき、とくに読売のマイナスは大きい。

かつて立法・行政・司法(3権)の暴走をチェックする一定の機能を持ち「第4の権力」と呼ばれたジャーナリズムが、3権に追随する「4番目の権力」に転落しようとしている、と論じたのはノンフィクション作家の佐野眞一氏(岩波書店「ジャーナリズムの条件」シリーズ3巻「メディアの権力性」2005年の冒頭部分)。

このシリーズは全4巻で、現代日本を代表するジャーナリスト80余人が豊富な体験に基づく論考を寄せているが、とくに「権力との関係」を扱った3巻はNHKの「従軍慰安婦問題」を巡る番組改変、東京地検特捜部による報道統制、イラクで邦人3人が拉致された際の異様な「自己責任」キャンペーンなどを取り上げて参考になる。組織に属さないフリー記者の奮闘ぶりにも勇気づけられる。図書館などで一読をお薦めしたい。

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