特集:内部被ばくから命を守るために
映画ミツバチの羽音と地球の回転内部被ばくを生き抜く 鎌仲ひとみ監督 インタビュー
7月21日、「内部被ばくを生き抜く」上映会+鎌仲監督トーク(吹田市・メイシアター・すいた共生・平和のつどい実行委員会主催)が行われました。2回の上映会の間の監督のトークでは、映画の見所、製作過程のエピソードや、出演者の生き様などが披露されました。編集部は、トーク後、監督にさらに突っ込んだインタビューをしました。合わせて紹介します。
原発事故で放射能は全国に拡散し、関西も放射能汚染から逃れることはできないとの指摘は重要です。 ( 文責・ 編集部)
福島原発事故では、広島原爆470発分もの放射性物質が環境中に出てしまいましたが、日本政府は、「大したことはない」と言い続けています。チェルノブイリ原発事故では、内部・外部被ばく合わせて年間1_Svを越えると「ヒバクシャ」と認定され、無料の医療サポートが受けられますが、日本では、「20ミリSvまでは大丈夫」とされており、世界的基準からすると、とても「常識」とは言えない基準が適用されています。
このため、福島の人たちも含め日本全体が、現状をどう捉え、どう対応すべきなのか? 大きな混乱が生まれています。東京大学の中川教授などは、「福島県内で今後ガンになる人は絶対いない」とまで言い切っています。こうした専門家たちが「大丈夫」と繰り返すので、ほんとうに大丈夫だと思い込んでいる人も沢山います。
でも、私は大丈夫だと思えない。被ばくによる健康被害は、程度も出方も個人差があります。イメージとしては、それぞれが独自のコップをもっていて、喫煙や持病によって大きさは違ってきます。このコップに放射能被ばくというリスクが全員に継ぎ足され、コップから水が溢れると健康被害が出るというイメージです。ただ、子どもは大人よりコップが小さいので、同じ被ばくをしても水が溢れ、免疫が対処できなくなって病気になりやすいことは、間違いありません。すでに健康被害が出始めています。
特に今後の心配は、内部被ばくです。放射能に汚染された食品が全国流通し、放射能から逃れることは、誰もできなくなっています。大人が1年間に食べる約1トンの食料品の中に、放射能が全く入っていないことは、ありえません。
子どもたちを被ばくで死なせていく社会
呼吸や汚染された水・食品による内部被ばくは、この時代に生きる者全員の問題となったのです。大阪でも安いものを買うと、産地偽装などで、知らぬうちに放射能を食べてしまっていた、という可能性が高いのです。大人は、子ども達を守る責任があると思います。
この映画に登場する肥田舜太郎さん、鎌田實さん、児玉龍彦さん、スモルニコワ・ バレンチナさんは、違った体験をしながら、内部被ばくについて考えてきた研究者であり実践家たちです。内部被ばくは、まだわからないことの方が多く、4人の意見が絶対正しいとも言えません。この映画「内部被ばくを生き抜く」は、彼(女)たちの知見に耳を傾けて頂き、映画を観た一人ひとりが内部被ばくとのつき合い方を掴んで頂きたいと思い、超特急で作ったドキュメンタリー映画です。
自分と家族の命と健康を守るのは私たち自身です。政府や偉い先生の言っていることを無闇に信じるのではなく、「これを食べるか食べないか?」を決めるのは、自分しかいないのですから、しっかりと現実を見極めて欲しいと思います。
健康を守るのは私たち自身
私が放射能をテーマにした最初の作品は、「ヒバクシャ・世界の終わりに」です。イラクでは、劣化ウラン弾の影響で多くの子どもが、がんや白血病で死んでいます。劣化ウラン弾は、原発が産み出した核のゴミです。この事実が、私の原点です。映画は、「子どもたちを被ばくで死なせてはならない」という想いから製作しています。
そんな想いで「六ヶ所村ラプソディー」、「ミツバチの羽音と地球の回転」などの作品を作ったのですが、残念ながら福島の事故が起こりました。放射能は真っ先に子どもを襲い、たくさんの子どもが、被ばくしました。
「自分はこれまで何をやってきたのか?」と落ち込みましたが、同時に、爆発後の政府の対応をみて、強い怒りを感じました。爆発後すぐに、子どもに安定ヨード剤を飲またり、避難させるなどの対策を何ひとつせず、子どもが被ばくするままに放置しました。
私は、自分なりに情報発信してきたつもりですが、すぐに「不安を煽るな!」とバッシングを受けました。子どもを被ばくさせても、事実を隠そうとする彼らの心理は理解できません。
5000人の原子力官僚〜原子力ムラ
霞が関には、5000人の原子力官僚がいます。彼らは首相や経産大臣が誰に変わろうとも、原子力を推進し続けています。例えば「エネルギー政策大綱検討委員」を選ぶのは彼らです。当然、全員原発推進派になります。また彼らにはエネルギー開発予算と称する原発開発予算が、6000億円あります。これだけの金を握り、霞ヶ関中枢で、やりたい放題でした。
アメリカには、「軍産複合体」があります。戦争によってしか成り立たない兵器産業などが、国防総省と一緒になって政府や議員に働きかけ、理由を付けて戦争を起こし、儲けてきました。日本の原子力産業もこれに似ています。原発を動かし続けないと原子力ムラ官僚たちの天下り先が保証されないのです。
福島原発事故後も、エネルギー庁長官が東京電力に天下りました。気象庁長官も同様です。私たちは騙されてきたのです。もう騙されてはいけません。
自分で自分の命を守る覚悟を
肥田舜太郎先生は、95歳のご高齢にもかかわらず、昨年100回の講演を行いました。2時間立ったままで講演されるそうです。ご本人も広島で被ばくし、世界で最も多くの被ばく者を診た医師だと言われています。
原爆投下から67年経ちましたが、医療の最前線でも内部被ばくについては、わかっていないことの方が多いのです。こうして「安全」を断言する「専門家」は信用されなくなりましたし、「日本人全員が被ばくしているのだから、できることはこれとこれだ。自分で自分の命を守る覚悟をしろ!」との肥田さんの意見が「希望がある」と観客に支持されています。
さらに児玉龍彦先生が、ゲノム解析の研究成果を示して、肥田先生が仰っていたことを裏付ける可能性を示しています。この映画の見どころです。肥田先生が指摘してきた放射線被害の様々な症状が、児玉先生の専門領域であるゲノム科学レベルでわかってきました。例えば、パリンドローム・シンドローム(回文的なDNA配列のまちがった修復)等で解析・実証されつつあります。
侮ってはいけない内部被ばく
この映画では、4人の医師とは別に、二本松市で幼稚園を運営する僧侶一家が登場します。佐々木さん一家です。彼らは、事故後一旦、母子だけ新潟に避難しますが、福島に住み続ける覚悟をして帰ってきます。夫は、地域のお父さんたちとボランティアで幼稚園周辺の除染をやり、自費で園舎屋根の葺き替えをやりました。
特に23歳を筆頭に5人の子の母親であるルリさんの覚悟の深さが凄いのです。佐々木さん一家は、400年続くお寺です。寺には墓もあり、子ども達100人を預かる幼稚園も運営していて、逃げることはできないのです。だから、住むと決めたかぎりは内部被ばくを避けるために、やるべきことはすべてやっている家族です。
ただ、日々のストレスは私たちの想像を超えるものです。今も福島で、「放射能の危険性」を口に出すと、地域住民からは「ヘンな宗教でも始めたの?」と変人扱いされるのが現実です。そうしたプレッシャーに向き合いながら、日々の生活を作り上げるのは、たいへんなストレスです。
この映画は、夫婦・家族で観て欲しいと思います。というのは、政府と福島県が挙げて「放射能安全」キャンペーンをやったので、家族の中でも意見が分かれて、家庭不和を生んでいるからです。
この映画では、活動の場所も分野も違う4人の医師が異口同音に「内部被ばくを侮ってはいけない」と警告します。「大丈夫だ」と思っている人に本を読めと言っても無理ですが、映像なら一緒に観られます。家族みんなで観て頂ければ幸いです。自分なりの内部被ばくのイメージを獲得して健康と命を守っていただきたいのです。
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