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新聞の作り方93:「富裕税」の選択肢を最初から除外 石塚直人

霞が関の洗脳作戦

消費増税法が成立し(8月10日)、全国紙は翌日朝刊1面トップで歓迎した。大阪本社版では各紙とも社会面に「街の声」をまとめたが、朝日、毎日がトップにしたのに比べると、読売は2社面、産経は3社面にそれぞれ3段格の小さな扱い。しかも、全体に不安の表明はあっても怒りのトーンは薄く、「つらいが仕方がない」という諦めも目立った。

東京で書かれる記事がどれほど霞が関の強力な洗脳作戦の影響を受けたものかは、例えば長谷川幸洋・ 東京新聞論説副主幹ら3氏の鼎談(週刊ポスト8月17・24日号)を読めばわかる。官僚の望み通りの記事を書けば公私に便宜が図られ、そのうち審議会の委員にも登用される、逆なら情報を遮断され、社内でも昇進できない、という構図だ。週刊金曜日の「消費税より富裕税を」(7月20日号)のような視点は最初から除かれている。

でも、「街の声」取材で記者が「富裕税という選択肢もありますね」と質問していれば、同意した人は多かったろう。東京の政治、経済部記者や論説委員が一面に書く記事を大阪で手直しすることは不可能にせよ、社会面にはもっと怒りがあってよかった。増税が実現するまでには国政選挙が2つあり、その結果によってはどんでん返しもあり得る。「仕方がない」と読者を諦めさせるだけでは、記事は民主主義にとってマイナスでしかない。

英国の闘う女性たち

この連載でも取り上げたことのある「研究会・職場の人権」の代表で甲南大名誉教授の熊沢誠さんは、毎年8月上旬に三重県の自宅に有志を招き、1泊2日の合宿を開いている。無類の映画好きだけに、選り抜きの作品2作の上映が定番になっており、今年は「ファクトリー・ウーマン」と「ラインの仮橋」を観た。

戦争の悲惨さを低声で告発する仏「ライン」も佳作だが、ここでは1968年の英国を舞台とする「ファクトリー」に触れたい。自動車工場でミシン工として働く女性たちが男性と同じ賃金を求めてストに立ち上がり、苦しい闘いを経て願いを実現するまでの実話をもとに2010年に制作された。庶民である彼女らは底抜けに明るく、正当な怒りが最後は勝利するという痛快無比の作品だ。

ストが長引き、工場が一時閉鎖されて男たちが日和見主義に傾く中、主人公が組合大会で名演説をし、会社とつるんだ執行部の意に反して「スト継続」を確定させるシーン、労働大臣(女性)が首相や会社からの圧力をはねのけ、彼女らと面会して満額回答に近い約束をするシーン。感動的な場面が多く、なぜ同じことが日本で起こらないのか、と考え込まずにはいられない。劇場では未公開ながら、ネットでは多くの紹介がされ、iTunesで観賞もできる。

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