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特集:社会保障全般の低下招く保護費切り下げ 利用しやすく、自立しやすい生活保護を!
日弁連・貧困問題対策本部副本部長・尾藤廣喜

格差=貧困の拡大により餓死・孤立死が頻発するなか(表参照)、社会保障費削減・消費税増税に加え、最後のセーフティネットと言われる生活保護が危機を迎えています。

障がい者にとって生活保護は、自立への重要な手段ですが、保護費の切り下げは、社会保障全体の切り下げにつながり、「地域での自立した生活」がますます遠のくことになります。

日弁連・貧困問題対策本部副本部長・尾藤廣喜弁護士による、「生活保護の現状と問題点」と題する講演会の内容を紹介します。

同弁護士は、「生活保護基準切り下げは、社会保障制度全体の切り下げにつながる。生活保護制度は、みんなのための制度であるという視点をもって」と語ります。(文責・編集部)

格差=貧困の拡大により餓死・孤立死が頻発するなか(表参照)、社会保障費削減・消費税増税に加え、最後のセーフティネットと言われる生活保護が危機を迎えています。

障がい者にとって生活保護は、自立への重要な手段ですが、保護費の切り下げは、社会保障全体の切り下げにつながり、「地域での自立した生活」がますます遠のくことになります。

日弁連・貧困問題対策本部副本部長・尾藤廣喜弁護士による、「生活保護の現状と問題点」と題する講演会の内容を紹介します。

同弁護士は、「生活保護基準切り下げは、社会保障制度全体の切り下げにつながる。生活保護制度は、みんなのための制度であるという視点をもって」と語ります。(文責・編集部)

インタビュー申請主義について

編: 生活保護バッシング、とりわけ扶養義務の強調の中で、障がい者(児)の親・親族は、生活に困っていても申請を躊躇する傾向が強まっています。また、知的障がい者が制度を利用するには、制度の内容をわかりやすく説明したり手続きする支援が不可欠です。

尾藤: 申請主義の前提は、行政が、@制度の内容や利用方法を市民にしっかり伝えている(広報する)、A相談に来た人に対して、ていねいに制度を教え、利用を助言することとつながっていなければなりません。

ドイツも日本と同じ申請主義をとっていまが、生活に困った人が自治体の相談窓口に行くと、担当者はその人が利用できるすべての制度について教える法的義務があります。

もし、教えていない場合には、行政に損害賠償が課せられ、ほかに回復請求権(遡って請求できる権利)も判例として認められています。日本でも、広報義務・助言義務は少しずつ認められ始めています。 権利を実現するためには、成年後見制度のような支援の制度化が重要でしょう。

成人した障がい者の扶養義務を親に課すのは不当ですし、生活保護の他に障がい者が経済的に自立するための有効な制度がないことが問題です。

生活保護バッシングの嵐

生活保護バッシングが猛威を奮っています。人気お笑い芸人の母親が生活保護を受給していたことが問題視され、扶養義務の問題として国会でも取り上げられました。私は、社会保障問題に40年近く関わってきましたが、これほど激しい生活保護バッシングは初めてです。

状況は厳しいのですが、この問題は、「国は何のためにあるのか?」、「社会保障とはいったい何なのか? 今後どうあるべきなのか?」を、 国民ひとり一人に鋭く問うています。

日本の民法上、強い扶養義務を負うのは、夫婦同士と未成熟の子どもに対する親だけです。成人した親子や兄弟姉妹同士の扶養義務は、「余裕があれば援助する」程度とされています。そして、仕送りの金額や方法は、当事者が話し合って決め、合意できない時に家庭裁判所が事情を考慮して決めることになっています。

ですから激しく批判されたお笑い芸人のケースが、「不正受給」にあたらないことは明らかです。厚生労働大臣が、「不正受給ではない」と国会で答弁すれば、すぐに結着がつく問題と思っていましたが、そうはならず、民法の基礎問題ですが、民法学者は誰も発言しませんでした。このため、私たちが見解を発表したのです。

扶養義務の国際比較と日本

扶養義務について、諸外国の実態を紹介します。英国・フランス・スウェーデンでは、夫婦と未成熟の子どもに対する親の扶養義務だけが決められており、成人した親子や兄弟同士の扶養義務は、問題になり得ません。

ドイツは、日本に似て「家計を同一にする同居者」への扶養義務を課しています。兄弟姉妹間に扶養義務はありませんが、成人した親子間には課せられています。しかし、高齢者・障がい者に対する扶養義務は、年10万ユーロ(約1000万円)を越える収入がある親子に限られています。

日本では、親族からの仕送りは収入認定されて、保護費は減額されますが、扶養は適用要件ではなく、「優先」されるという性格です。生活保護法77条では、生活保護を利用している人に対する親族からの仕送りが少ない場合、福祉事務所が、家庭裁判所に親族からの仕送りの増額を求めるとされています。

橋下大阪市長が、扶養義務者の勤務先や収入調査を行うそうですが、これこそ「生活保護利用者の親族は公務員になれないのか?」「家から離れて貧困から抜け出すことは許されないのか?」と問いたくなります。市長の行動こそ、制度の無理解を示しています。

生活保護小国=日本 財政危機と生活保護費

「生活保護受給者が過去最高」と報道され、受給者が多すぎると主張されています。過去最高だった204万6千人(1951年)を越えたのは事実です。しかし、当時と比べ人口が1・5倍に増えていることを忘れてはなりません。

全人口に占める受給者率で比較すると、1951年の3分の2です。日本の利用率=1・6%を、先進諸外国と比較した表1を見てください。日本の利用率は、ドイツの6分の1、スウェーデンの3分の1で、とても低いことがわかります。

さらに、収入が最低生活費を下回っている世帯のうち、生活保護を利用している世帯の割合=捕捉率は、2割に過ぎません。これは先進諸外国と比較して際だって低い数字です。

日本に次いで捕捉率の低いドイツ並みに引き上げるだけでも、日本の生活保護利用者数は、630万人。受給者は3倍程度になります。 日本は、「生活保護利用者が多すぎる」のではなく、「利用できない人が多すぎる」のが実態です。

2012年に入ってから全国で「餓死」「孤立死」事件が相次ぎました。生活保護の利用率の低さが、こうした痛ましい事件の背景にあります。

テレビなどで、「受給者が増加し、国や地方の財政を圧迫している。生活保護予算を引き下げないと財政が破綻する」かのようなコメントが聞かれます。しかし、日本の生活保護費(社会扶助費)は、3・5兆円で、対GDP比は、0・5%。OECD加盟国平均の7分の1です。極端に低いのです。

生活保護費を引き下げても財政への影響は小さいし、国民の命を守るための支出を財政問題を理由に引き下げるという安易な引き下げ論は、危険です。

ナショナルミニマムを守るために

生活保護は、生活に困っていれば誰でも権利として受けられるものです。生活保護費は、日本の「最低生活費の基準」であり、暮らしに役立つ制度が利用できるかどうかの基準なので、保護費の切り下げは、様々な部分に影響を与えます。

例えば、就学援助の適用基準や公営住宅家賃の減免基準の基礎になっています。また課税基準にも影響し、最低生活費が減額されれば、地方税非課税上限が引き下がり、非課税世帯も課税されるようになり、生活が圧迫されることになります。

最低賃金の連動した引き下げも招きます。最低賃金も、労働者に憲法25条が定める「健康で文化的な最低限の生活」を保障するという目的で定められたからです。最低賃金が引き下げられると、労働コストの基準が下がり、あらゆる層で収入が低減します。

逆に、保護基準を引き上げると、生活保護を受けていない人も各種制度を利用できるようになったり、非課税になったり、最低賃金が上昇したりと、生活の向上になります。

デンマークのように当事者主義を

貧困の拡大を反映して、生活保護の利用は急速に進みました。失業率の高止まり、非正規労働の増加などで、今後も、増加し続けるでしょう。ところが、生活保護の議論は、財政的観点が強調され、抑制・引き下げばかり主張されています。

先々週、デンマークに調査に行ったのですが、デンマークでは、社会保障裁判が極端に少ないそうです。理由は、制度を作る時には、必ず当事者と協議するからです。社会保障政策は、当事者と行政と政治家が、長期間話し合うそうです。日本の障がい者自立支援法のような、行政のみによる制度策定は、デンマークではあり得ません。

生活保護改革論議も、当事者の意見をベースに議論すべきです。当事者が何に苦しんでいて、どうすれば「利用しやすく自立しやすい生活保護」になるか? 議論し改革すべきです。

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