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当事者リレーエッセイ:変わってゆくものと変わらないもの 轟広志

変わる言葉

このところ物事の変化に驚いてしまう。例えばアナログ人間の私は、デジタル機器の使いこなしが難しい。携帯電話は手放せないが、新機種に変えるたびに、操作方法を覚えるまで苦労する。操作パネルのスイッチ位置を全機種統一してくれたらいいのにとさえ思う。だからタッチパネルのスマホなどは、論外となる。便利になって色々なことができるぶん、何かを失っているような気さえする。

精神障がい者の暮らしもどんどん変わってきている。一昔前に叫ばれていた「病棟から地域へ」の声は、もう聞かない。何十年にも及ぶ入院生活をしてきた人たちが、みんな地域で無事に生活を営んでいるからだろうか?

その代わりのように「地域生活から地域活動へ」―まるで自宅から職場へとでも言わんばかりのように感じる。

事実、20世紀末に比べて正当な形での障がい者枠の雇用も増えてきているようだ。だけど「いい世の中になった」と手放しでは喜べない。そもそも精神障がい者は、大好きで楽しいことをしていても疲れてしまう難しさがある。まして「働けるか? 働けないか?」はいらない。それは単に個人的な課題や選択であって、障がいの有無とは関係ない。

一昔前の、本当に人生の長い期間を病棟で過ごした人たちは、どうだろう? 晴れて地域での生活を始めた人で、「これから第2の人生」と就労したという話を私は聞かない。

何か、肝心なことや大事なことに触れずに、あらゆる物事が決まり、変わってゆく気がする。でも「だからこうだ!」と具体的な提案ができない自分が歯がゆい。

このままでいい

もう10年くらい前に、テレビの報道番組で大阪北部の精神障がい者地域生活支援センターが取り上げられていた。テレビの画面に映し出された障がい者たちは、屋外の喫煙場に集まり、「駅で電車を待つ時、ホームの前の方に立ってる?」と話す。その場のみんなが「電車が止まってドアが開くまで、ホームの前には出ないようにしている」と答えた。

「そうやんなぁ、電車が入って来るのを近くで見てたら、ふぅっと行ってしまいそうになる…」。こんな気持ちで過ごしているのが精神障がい者なのだと共感を覚えた。

その番組の終盤に女性施設長がこう言っていた。「彼らは彼らのままでいいと思っています」。今にして思えば、変わってゆくものと変わらないものを考えさせる重い言葉だった。

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