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新聞の作り方95:マスコミが権力のウソを見抜けないワケ 石塚直人

警察の不正を暴いた記者

北海道新聞のデスク時代、道警の裏金問題取材班を率いた高田昌幸さんの講演「マスコミが権力のウソを見抜けない本当のワケ」があるというので、神戸市内の会場に足を運んだ(9月30日)。台風による暴風が吹き荒れる中、100人を超える市民がつめかけた。

警察の裏金は、捜査の協力者に支払ったとの名目で公金をプールし、飲食費などに使うもの。 全国にあると言われたが、事件事故取材を警察の情報に頼る新聞・テレビはその実態解明に踏み込むことを避けてきた。高田さんの取材班は年からの1年半に1400本の記事を載せて道警を追及。本部長が公式に事実を認めて議会で謝罪、9億円超を幹部らが返済した。

高田さんは、「日本には約2万人の記者がいるが、ほとんどは役所や警察の記者クラブで仕事をしている。官邸前の反原発デモに関心があっても、組織としての新聞社はそれを取材する時間を与えず、自分の担当の仕事に集中させようとする」「記者の配置は役所のシステムにぴったり合致しており、昔も今も変わっていない。労働に関する話題が多い現代に労働事件が紙面に載らないのは、労基署に記者が常駐していないから」と説明した。

「締め切りまで時間のない午後11時、幹部に突然呼ばれて『ニュースソースを伏せるならこれを書いてもらっていい。君だけに教える』と言われる。後で秘書官から、他社の記者も呼ばれたと電話が来る。それでも完全に裏取りができるまで書かない、と言い切れる記者はいない」。権力はそうやって、自分にとって都合のいい記事を書かせようとする。

圧力に屈した幹部たち

取材班はその後、道警との関係修復を目指す社幹部の意向で散り散りになり、高田さんは左遷の末に退社、今年4月から生まれ故郷の高知で記者を続けている。退社に至る経過は、彼の著書「真実―新聞が警察に跪いた日」(柏書房)に詳しい。

定年退職した元幹部による相次ぐ提訴、不祥事摘発の露骨な脅しなど、道警の圧力に新聞社幹部が屈服した結果と言える。上記のような情報操作に乗ることも、その根は同じ。

9月下旬には原子力規制委員会が「しんぶん赤旗」を記者会見から締め出す暴挙をあえて行い、世論の批判を受けて撤回したが、この問題を紙面で取り上げた在京紙は東京新聞だけだった。こうした新聞社の現状が「読者を支え、読者に支えられる」ジャーナリズムの本旨と合致しているとは、とても言えない。

ただ、それでも一部に優れた記事が載り、社会を改革する力となっていることも事実だ。高田さんは講演の最後を「いい記事を見つけたら、良かったと言ってほしい。そういう声が 多くなれば記者の励みになり、編集幹部にも影響する」としめくくった。私も自分なりの体験から、本当にその通りだと思う。

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