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特集:11/2 鉄道駅の安全を考えるシンポジウム
安心して駅や電車を利用したい!

11月2日、様々な障がいの視点から「鉄道駅の安全を考えるシンポジウム」(大阪障がいフォーラム・交通エコロジー・モビリティ財団共催)が、大阪市・中央区民センターで行われました。ホームからの転落事故が後を絶たないため、鉄道駅を安心・安全に利用するには何が必要か? 様々な視点から改善策を模索します。

シンポジウムには、身体・聴覚・視覚・盲ろう・知的の異なる障がい当事者に加え、鉄道事業者・行政関係者・研究者も参加しました。立場や抱える現実が違う者が広く集い、相互理解を深める場としても大きな意義がありました。秋山哲男さん(北星学園大学客員教授)の基調講演の後、当事者からの発言と続き、「鉄道駅アンケート」の概要も報告されました。(編集部)

ホーム転落の危険視覚障がい者

「欄干のない橋」―全盲の三上洋さんは、駅のホームをこう呼びます。視覚障がい者にとって駅のホームは、危険に満ちています。昨年だけでも3人の視覚障がい者がホームからの転落事故で死亡しています。

三上さん自身、ホームから転落した経験が5度もあり、その報告から始まりました。三上さんは、いつも乗っている京阪・香里園駅ホームで、先頭車両を目指してホームを歩いていたら、発車をしらせる駅員の笛が鳴ったので、慌ててドアに飛び乗りました。ところが実際は「列車の連結部分から飛び降りていた」のです。最近は、こうした事故が起こらないよう連結部には転落防止ガードが付いていますが、当時は付いていませんでした。

幸い骨折もしていなかったので、ジャンプしてホームにはい上がろうとしたら、乗客が引っ張り上げてくれたそうです。もし、転落の時に怪我をして動けず、誰にも発見されなければ大事に至る事故でした。

全盲の人は、3人に1人が、ホーム転落の経験をしているそうです。驚くべき数字です。視覚障がい者にとって電車は、命がけで利用しなければならない公共交通機関なのです。

利便性にも大きな問題があります。視覚障がい者は、行先や停車駅を示す電光掲示板が見えません。晴眼者は、乗り間違えて別の駅に降りても、引き返すことは可能ですが、知らない駅に降り立った視覚障がい者は、何がどこにあるのか? 全くわからないので、タクシー乗り場も探せず、立ち往生せざるを得ないのです。このためホームでは電車が近づくと「音サイン」で進行方向を示しています。絶対に進行方向を間違えないように三上さんは、音サインに独自の歌詞を付けているそうです。

でも音サインは、鉄道事業者によってバラバラで統一されていません。「音程なども工夫すれば、お金をかけなくても、もっとわかりやすく便利にできるはずだ」と三上さんは締めくくりました。

災害緊急時の困難聴覚障がい者

聴覚障がい者にとっての鉄道駅の問題については、大阪聴力障がい者協会の大竹浩司さんが手話で報告しました。聴覚障がい者は、「見える範囲」ではホームの安全は確認できます。しかし、電車が近づいてきた時や発車する直前の笛やアナウンスは聞こえないので、電車がいつ到着し、いつ発車するのか?は、時刻表を頼りにするしか方法がありません。ホームを歩いていても、電車が近づくのがわからず、突然の風圧に驚くこともしばしばだそうです。

最も困るのは、災害時です。阪神大震災の当日、よく利用する地下鉄・御堂筋線も不通になったのですが、駅に着いた大竹さんは、いつ再開するのか? 代替交通手段はあるのか? わからず、自宅に引き返さざるを得ませんでした。

昨年の東日本大震災の際も東京にいた大竹さんは、大混乱のなか情報が得られず、たいへん不安な日々を送りました。手話はまだまだ社会に普及していないので、駅員に停車駅やホームの位置・料金などのちょっとした質問もしにくく、困ることも多いそうです。

大阪障がいフォーラムが初めて行った「鉄道駅アンケート」には、知的障がい者が最も多く回答を寄せ、全体の67%を占めました。ホームからの転落事故も「ある」との回答が9件報告されており、危険を感じる度合いの高さがわかります。そして転落事故は、子どもの時期に集中しているそうです。

重度の知的障がい者の場合、多動であったりこだわりが強かったりするので、気になるものに向かって急に走り出したりするような突発的な行動があり、ホームから飛び降りてしまうこともあるそうです。

一刻も早くホームドアの設置を

盲ろう者からは、桑村昌和さんが報告しました。耳と目からの情報が閉ざされている盲ろう者は、介助者を伴って駅を利用しますが、急いで走ってきた乗客がぶつかってきて転倒したり、狭い通路を歩いていて誤ってホームと電車の間に挟まってしまった事例もあるそうです。

ODFのアンケート調査では「ホームのどこが危険だと感じるか?」との問いに、@「狭いホームの駅」という回答が一番多く、A「乗降客が多い駅」となっています。また、安全対策として、@「可動式ホーム柵の設置」が最も多く、続いて、A「駅員の配置」、B警報ボタン設置となっています。

桑村さんは、「盲ろう者は、介助者なしに駅の利用は不可能だし、常に不安な思いを抱えながら利用している」ことを強調し、こうした事故を防ぐためにも、一刻も早いホームドア・ホーム柵の設置を求めました。

公共交通のバリアフリー化施策とその課題 基調講演要旨-秋山哲男さん

基調講演を行った秋山哲男さんは、都市交通計画が専門でユニバーサルデザインの研究者です。政府諮問委員として政策提案する立場でもあり、公共交通のバリアフリー政策について、講演しました。以下、ポイントを紹介します。

バリアフリー新法(2006年)では、1日の乗降客が5000人以上の駅については、2010年度までにエスカレーター、エレベーターの設置を義務づけるなど、移動の利便性および安全性の向上を促進することになりました。

ところが公共交通のバリアフリー化の達成実績(2010年時点)は、原則100%とされた駅などの段差解消=85.5%、視覚障がい者誘導用ブロック=97.1%、障がい者用トイレ=83.2%でした。また、鉄道車輌のバリアフリー化は、49.5%、旅客船=18.1%、航空機=81.4%と遅れている実態が明らかになっています。

特に地方部の整備が遅れていることが今後の課題です。鉄道の段差解消を見ても、東京・神奈川・愛知・大阪など大都市圏は、80%以上ですが、北海道・東北・北陸・大分・宮崎は、20%を下回っています。地方部の中心駅は比較的バリアフリー整備が進んでいるので、今後は利用客数の少ない駅の整備を進めていくことが課題です。

この現実をふまえ2020年までの目標として、@障がい特性に応じたバリアフリー化、A災害時・緊急時の取り組みが重要です。鉄道については、1日の乗降客3000人以上の駅をバリアフリー化する目標です。3000〜5000人の駅は、全国に約650駅あります。

また、ホームドア・可動式ホーム柵等の転落防止対策については、早急な対策が必要です。利用者1万人以上の駅で、ホームからの転落事故の約8割(1253件)が発生しています。このうち、利用者10万人以上の駅をみると、1駅あたりの事故発生件数が1.82件/駅で、多くなっています。

ところが、@列車運行時間帯での工事が困難、A多額の費用が必要、Bホーム全体の大規模補強工事が必要などの理由で、今回は「優先的に整備すべき駅を検討し、可能な限り設置を促進する」となり、数値目標は設定されませんでした。ちなみにホームドア・ホーム柵は、2011年3月時点で全国498駅に設置されています。

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