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新聞の作り方96:衆院解散とメディア 石塚直人

極右政治家との蜜月

衆院が解散し、各党は12月16日の投票日に向けて走り出した(11月16日)。野田首相が党首討論で解散日を明示する異例の戦術を断行してから、わずか2日しかたっていない。民主党議員の離党や「第3極」の集合離散はなおも進行中だ。

16日の各紙朝刊では、読売が安倍・自民党総裁の時局講演(15日)を1面左肩に置き、中面では1ページ全体を使って詳報、2面と経済面にも関連材を入れたことが目を引いた。1面では中国の新指導部発足という大ニュースもあったが、これを中段に押しやり、「衆院きょう解散」に次ぐ2番手とした。

この講演は自社主催の「読売国際経済懇話会」。安倍氏は原発再稼動、対中国強硬論と防衛費増額、教育制度の見直しなどを1時間半にわたって主張した。総選挙後の新政権は自民党を軸に形成されるとみられ、この内容が新政権の基本構想になる可能性は大きい。

この種のイベントの講師は、遅くとも1カ月前には決まっているのが普通だ。「きょう解散」の日と重なったのは、たぶん偶然に過ぎない。とはいえ、この大扱いには、単に有力な次期首相候補だから、という以上のものがある。

日米同盟堅持と原発再稼動を掲げる読売にとって、安倍氏は思想的に極めて近い政治家だ。この日の紙面は「我々は安倍氏を推す」という読者へのメッセージ。極右政治家と発行1000万部の新聞社の蜜月状態がこれから始まるかと思うと、背筋が寒くなる。憲法改「正」で戦時体制、も遠くないかもしれない。

朝日新聞の失態

中国の新指導部や米国オバマ大統領の再選についても、書きたいことは多い。ただ、時流に乗る読売との対比なら、朝日の惨状に触れない訳にはいかない。「週刊朝日」10月26日号が橋下大阪市長の出自を巡る連載記事を載せ、反論を受けて謝罪した件だ。

彼の異常な振る舞いが出自によるものだとする視点はおかしいし、「ハシシタ 奴の本性」の見出しも下品。だが、同種の記事は昨年来、週刊新潮など他の雑誌にも載っている。それにはツイッターで罵倒するにとどめていた橋下氏は、「朝日新聞を記者会見から外す」と雑誌ではなく本体部分の新聞を攻撃、朝日はなすすべもなく屈した。

喧嘩に負けたのが悪いのではない。名うての喧嘩上手である橋下氏を相手に、読者を導くだけの道理もなく、ろくな準備もせずに戦いを気取ったのが悪いのだ。すぐ降参するくらいなら何もしない方がよかった。

愚挙の裏には、大新聞グループの驕りがなかったろうか。被害が及ぶのは社内だけではない。とくに民放テレビに顕著な、メディアが橋下氏の権勢に迎合する傾向に、さらに拍車がかかるだろう。傍若無人の橋下氏に条理を尽くして反論や説得を試みている、多くの人たちの努力にも泥を塗った。

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