ぷくぷくの会ホームページ

特集:障がい者制度改革と障がい者総合支援法の課題
運動のないところに権利はない DPI日本会議 事務局長 尾上浩二

「2013年は障がい者制度改革の総仕上げの年になる」―尾上浩二さん(DPI日本会議事務局長)は、政治が混乱しているからこそ当事者運動の重要性を強調しています。「障がい者基本法」に明記された、統合(インクルーシブ)社会の実現を目指し、地域生活を原則とする制度改革に逆行する動きも見受けられるなか、総合福祉法制定は、「総合支援法」と名前を変えて肝心な部分は3年後に見送られ、最後のハードルである「差別禁止法」制定も今年の課題として控えているからです。

12月9日、大阪障がい者自立セミナー(主催・障大連)が行われ、全体会の基調講演として、尾上浩二さんが「障がい者制度改革と障がい者総合支援法の課題」と題する講演を行いました。

障がい者制度改革は、2009年に同推進会議が設置され、翌10年1月から議論が始まりました。24名の内14名が障がい当事者(またはその家族)という「推進会議」の議論は、毎回インターネットで手話と字幕付きで配信されるという画期的な情報公開も実現してきました。

尾上さんは、「運動のないところに権利はない」という原則に立ち返り、全国的な大衆運動を呼びかけています。(文責・編集部)

障がい者制度改革のポイント

障がい者制度改革の基礎は、「障がい者権利条約」(2006年、国連総会で採択)です。その主な理念は、@社会モデルによる障がいのとらえ方(社会参加を困難にしているバリアをなくしていく)、A差別禁止、Bインクルージョンです。

この理念を現実にするためのロードマップが「第1次意見」としてまとめられました。第1歩は、「障がい者基本法」改正(2010年)、2歩目は、障がい者総合支援法の制定(2012年)、3歩目が障がい者差別禁止法制定(2013年)です。「私たち抜きに私たちのことを決めないで!」というスローガンを実現するための重要な制度改革です。

ところが、総合支援法は重要な項目の多くが今後の見直しに委ねられ、差別禁止法も新たな政権の枠組みによって不透明になっています。このため1月に京都で全関西レベルの集会を行うのをはじめ、全国キャラバンが予定されています。

障がい者基本法改正のポイントは、@インクルーシブ社会を目指し、A地域社会での生活を原則とし、B障がいを理由とした差別を禁止することです。障がい者が地域で介護や支援を得られないために病院や施設で生活するしかないという状態は、障がいがない人と平等でないために違法な状態だということになります。

日本には、政府が認めているだけでも7万人ともいわれる社会的入院を強いられている障がい者がいます。

すべての障がい者は、どこで誰と生活するか? 選択でき、地域社会で生活するための支援は、社会の側が提供すべき義務を負っているのです。基本法改正は、常時介護支援をはじめ地域生活を支える諸制度を整えなければならない法的根拠となります。

また、障がい者総合支援法は、福祉サービスの谷間や空白の解消を目指しています。日本で法律的に障がい者と認定されているのは約700万人で全人口の6%程度ですが、EUなど先進国の2分の1から3分の1です。日本に障がい者が少ないのではなく、法的基準が狭いために、支援の対象者であるべき人がはずされている現実があります。障がい者の定義の見直しで、障がい者福祉の適応を受けられる人の範囲を大きく広げなければなりません。

パーソナルアシスタンス制度

重度訪問介護の発展的継承によるパーソナルアシスタンス制度の創設も重要です。パーソナルアシスタンスとは、@利用者の主導(支援を受けての主導を含む)による、A個別の関係の下での、B包括性と継続性を備えた生活支援をする仕組みです。

知的障がいなどで自分の意見を決めたり表現することが苦手な人は、信頼できる人と話し合いを行い、自分のペースに合わせて、やりたいことを決めるための支援を受けることができます。

対象者は、重度肢体不自由者に限定せず、また障がい種別も問わず、日常生活全般に常時支援を必要とするすべての障がい者が利用できるよう、また、通勤・通学・入院・1日を超える外出にも利用できるような仕組みにしなければなりません。

激しさ増す基本法への反動

障がい者制度改革は、推進会議の設置、基本法の制定・改正まで進み、総合福祉部会の「骨格提言」としてその方向性を示すことができました。国会審議の場で確認された「段階的に実現するものは骨格提言の内容」との答弁を活用しなければなりません。

しかし、自立支援法に固執する立場からの巻き返しも激しくなっています。その一つが、総合支援法の付帯決議です。「親なき後」、「高齢化」などを理由にして「小規模入所施設」までも含めて地域生活支援の一つとして検討されようとしています。

地域での自立生活は、入所施設への批判から生まれたスローガンです。私たちからいえば言葉の矛盾でしかありませんが、「地域生活が基本だ」とした基本法改正への反動とも言える内容です。地方分権の下、自治体によっては施設生活の延長のような敷地内ホームなども認める動きが出てきています。これからは、「本当の地域生活とは何か?」という議論に入っていくと思います。

制度改革推進会議は、改正障がい者基本法に基づき「障がい者政策委員会」に引き継がれました。総勢30名の委員のうち16名が障がい当事者で、会議の様子も引き続き手話・字幕付きでインターネット配信されます。当面は、今年3月が期限となっている障がい者基本計画に代わる新たな計画を作ります。

制度改革は未だ道半ば

「運動のないところに権利はない」―これは世界中どこの障がい者運動を見ても真理です。制度改革は未だ道半ばです。権利条約は、脱施設化条項と、地域生活支援条項を盛り込み、車の両輪として障がい者の地域自立生活を保障することを目的としています。引き続き運動を進めていきたいと思います。

特に、障がい者権利条約批准は、差別禁止法の制定を勝ち取るか否かの大きな分岐点に立っています。差別禁止法については、差別禁止部会の意見書がまとまりました。2013年の通常国会で制定のために、2〜3月に閣議決定する予定ですが、政治の流動化でどうなっていくのか不透明です。

万一、閣議決定が遠のいたとしても、そこで法制定を諦めることはできません。差別禁止法抜きの「障がい者権利条約」批准は、避けなければなりません。閣議決定を求めることは当然ですが、議員立法をも視野に入れた、最後まであきらめない取り組みが必要です。各政党に対するねばり強い働きかけも含めて今年上半期、全力をあげて取り組みたいと思います。

差別禁止法ができることで、統合教育への取り組みも支援制度の拡充も大きく前進します。差別禁止法抜きで形だけの条約批准にならないよう、差別禁止法と障がい者総合支援法の3年後見直しを一体のものとして取り組みたいと思います。

WEBは抜粋版です。すべて読みたい方は購読案内をご覧ください。



1999 pukupuku corp. All rights reserved.