新聞の作り方98:政権に寄り添って変化する紙面 石塚直人
メディアとしての「倫理」はどこへ
年末に第2次安倍政権が発足した。2%のインフレ目標など「アベノミクス」を打ち出し、当面は経済再建に全力を挙げる構えを見せている。最もやりたいはずの改憲は、今持ち出すと政権運営に支障が出かねず、夏の参院選が終わるまでは封印するつもりらしい。
それにしても、新聞の紙面が変わったなと感じるのは私だけではあるまい。民主党政権時代、少なくとも建前としては存在していた「脱原発」が消えた。閣僚らの「原発ゼロ政策は見直す」発言を伝える見出しが繰り返され、財界人が歓迎を唱和する。社会面でも、反原発集会の記事は大きく減った。
新政権ができて一定期間は、「お手並み拝見」で強い批判を控えるのが、明治以来の新聞の慣例とはいえ、これほど変わると「脱原発を掲げた新聞社も、結局政権に追随していただけか」と言われかねない。大学時代の同級生の年賀状には「結局、福島の悲劇もひとごとだったんですね」とあった。
原発事故の現場では作業員が命がけで苦闘し、周辺の放射能汚染も続いているのに、臆面もなく原発輸出まで言及する政治家や財界人も、それを単に広報するだけのメディアも「倫理」に欠けている、と私は思う。政治部、経済部といった縦割りの、記者クラブに依存した取材のあり方を改めない限り、大筋で権力に寄り添った紙面はいつまでも続く。
「志」を感じる年末年始の特集記事
とはいえこの間、読みごたえのある記事も多かった。朝日が大晦日の1面、 2面で大扱いした「働き盛り社内失業」は、パナソニックやシャープの「追い出し部屋」を取り上げた。30〜40歳代を含む100人以上の正社員が、単純作業と研修だけの部屋に押し込まれる。事実上の退職勧告だ。
毎日では、クリスマスイブから7回連載の「老いてさまよう」。介護報酬を目当てに業者が高齢者を賃貸住宅に囲い込む現状を、記者が5カ月にわたり、同じマンションに住み込んでルポした。高齢者施設ではないため、介護職員の配置基準も防災設備もない。厚労省は「実態は把握していない」という。
行政の無策の裏に隠れた社会病理があらわになるのは、取材記者の「志」があってのこと。もちろん日本だけのことではない。94年に100万人が殺されたアフリカ・ルワンダを舞台に、悲劇のあらましや国際社会との関係を詳しく紹介した2冊の本(ゴーレイヴィッチ「ジェノサイドの丘」WAVE出版、ルセサバギナ「ホテル・ルワンダの男」ヴィレッジブックス)は、私にとってこの冬の最大の宝物になった。
昨年からこの国で働く長男が正月休みで帰省し、プレゼントしてくれたものだ。詳しくは彼のブログ「FOOMIN PARADISE」http://logs.yahoo.co.jp/s061139、昨年11月26日の項などを参照してください。
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