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新聞の作り方99:政治・経済批判が弱い日本のマスコミ 石塚直人

「体罰」報道の功績

1月下旬から2月にかけ、「暴力」「体罰」のニュースが相次いだ。大阪市立桜宮高校バスケットボール部主将の男子生徒が顧問の暴力に耐えかねて自殺したこと、女子柔道の日本代表を含む15選手が代表監督の暴力をIOCに告発したことが双璧で、これらに触発されるように、各地で同種の事件がいくつも報じられた。

一連の流れを見ると、他社をにらみながら出稿するマスメディアの「横並び」ぶりと、それが世論を作る経過がよくわかる。事件・事故報道では、単独では地域版にしか載らなくても他県に同種のニュースがあれば社会面、がよくある。2つ並べると迫力が増すからだ。社会面の本記とは別に、同じニュースを別の角度から掘り下げたサイド記事を地域版に載せる。「抜いた・抜かれた」がはっきり見えるだけに、取材も熱を帯びる。

今回、桜宮高校の顧問は異例の懲戒免職となり、柔道女子代表監督は辞任した。記事は「人間の可能性を追求する教育やスポーツの場で、なぜ指導に名を借りた暴力がなくならないのか」を問いかけ、学校運動部や柔道界に転換を迫った。「暴力で技量や精神力が向上したことは皆無」という元巨人軍・桑田真澄さんらのコメントは各紙に載った。

顧問への寛大な処置を求める嘆願書に1100人が署名したように、問題の根深さは歴然としている。それでも、この間の報道は爽快だった。トップを告発した15選手の匿名も守られた。「もう暴力で人を支配する時代ではないのだ」と多くの読者に考えさせたとすれば、その功績は高く評価できる。

一面的な政治記事

学校やスポーツの取材でできることが、なぜ政治ではできないのか。安倍政権と「維新」が着々と国の右傾化に向けた動きを進める中、これはと思う記事は少ない。

顧問の免職が報じられた2月14日朝刊に、毎日は東京で開いたシンポジウム「沖縄の声を聞く」の詳報を載せた。琉球新報の政治部長らを招き、両社の3記者が「本土のメディアは沖縄についても米国についても一面的にしか報じていない」「韓国では米兵によるレイプ事件から地位協定を変えた。変えようとしないのは日本政府だ」などと論じた。

翌15日の赤旗が、「内部留保の1%以下を取り崩すだけで月1万円以上の賃上げが可能」とトヨタなど21社について一面に独自の試算を掲載したのは、前日の共産党の記者会見に基づくものだが、これもほとんど無視された。若者を大量に採用し、奴隷のように働かせて落伍すれば首を切る「ブラック企業」への追及も及び腰で、まだまだ弱い。

国民の最低生活を、労働者の雇用を守るのは政権と企業の義務であり、それができないなら退場してもらうしかない。生活保護を切り下げながら「国を守る」、内部留保と役員報酬を増やしながら「賃上げなどもってのほか」とうそぶく政財界トップの罪深さは、被害の広がりの点で、免職になった顧問の比ではないのだから。

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