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当事者リレーエッセイ:アルジェリアでのテロ事件 村上博

アルジェリアでのテロ事件で日本人10人が命を奪われた。

1月中旬、私は知人からの事件の一報に絶句した。その中の一人に熊本出身の木山聡さんがいたからだ。

「ヒューマンネットワーク熊本」草創期は、子どもたちに車いす体験などの交流を通し、障がい者理解を深める啓発活動「ふれあいキャラバン(略称ふれキャラ)」を活発に行っていたが、彼のお母さんは、平日、土、日にかかわらず実に気軽に運転を引き受けてもらい、大いに助かったものだ。  聡さんとの出会いの最初はイベントの夏祭りをお母さんと一緒に手伝ってくれた時だった。中学生になったばかりの聡さん。しかし、会ったのは数回程度であり、高専、技術大学を卒業し、大手石油プラント「日輝」へ入社、エンジニアへの道を確実に歩んでいた聡さんのその後を私は全く知らなかった。

聡さんは技術者としておもに中東・アフリカに派遣され、今回、アルジェリアで事件に巻き込まれた。当初、聡さんの電話インタビューの音声が流されたので生存が報じられていたが、残念ながらその後命を奪われ、身重の妻と1歳の愛息を残し29年の生涯を終えた。

地球の石油の埋蔵量は30年程度で枯渇する、と言われるほど私たちの現代生活は大量の石油消費で成り立っている。それらのほぼ100%を輸入石油に依存している。この20年わが家ではエアコンを使わないとはいえ、あらゆる分野で私も便利に慣れきった 石油漬け の生活を送っている。アフリカの現地の人たちとにこやかに交流している様子がお別れ会の中でスクリーンに映された。聡さんたち多くの技術者がアフリカや中近東で 日本の石油確保≠フために働いている。

障がい者運動の長年の成果として、ヒューマン立ち上げの22年前とはかなり変わってきた。今では当たり前のように街中で電動車いすの障がい者を見かける。ただ、国連の障がい者差別禁止条約批准で欠かせない国内法整備のために議論を重ねて作り上げた骨格提言は完全に骨抜きとされた。多くの課題は残されたままだ。しかし、障がい者の問題だけを訴えても必ずしも国民全体の共感は得られない。

私は福島原発のメルトダウン放射能汚染と合わせ、日本のエネルギー政策が切羽詰まっていることを改めて思い知らされた。今回の事件をただ単に知り合いの息子さんの命が奪われた「お気の毒」な出来事に留めてはならないと感じた。

一見、自分には関わりがないと思える世の中のさまざまな問題は、渦中にいる当事者にとっては切実だ。はたしてどれくらい自分のこととして向き合えるか、そのことを考えるきっかけとして聡さんの命を考えたい。合掌。

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