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新聞の作り方101:現場記者とメディア幹部の隔たり 石塚直人

記者の職業倫理

4月13日午前5時33分、淡路島中部を震源とする強い地震があり、兵庫県淡路市で震度6弱を記録した。関西で震度6以上を観測したのは阪神大震災以来18年ぶり。中四国を含む5府県で23人が重軽傷を負った。

南海トラフ巨大地震の発生が懸念されていることもあり、各紙の夕刊(大阪本社版)が大扱いしたのは当然だろう。ウェブ版でも午前6時までに全国紙の一報が出揃い、昼前後までに現場の写真も次々にアップされた。動画を公開する社もあり、液状化で黒ずんだ地面を空からなめるように見渡した画像とヘリの機械音は迫力があった。

地割れの写真につけられた旧知の女性記者の署名を見て、今も昔も変わらない「取材現場」に思いを馳せた。この島で勤務する彼女は30歳代前半。7時半の撮影だから、たぶん化粧もそこそこに自宅を飛び出したことだろう。現場に見取り図はない。もっと探せばさらに迫力のある写真が撮れるかも、とせきたてられるように車を走らせる一方で、記者には締め切り時間というものがある。送信が遅れれば矢のように催促が来る。

現場で記者を突き動かすのは、事実を広く正確に伝えることへの執念であり、それがなければ記者とは言えない。写真1枚ですべてを伝えることなど、本当はできるはずもないのだが、それでもぎりぎり追求するのが、職業倫理というものだ。その積み重ねが新たな世論を作り、社会を変えていく。

首相にすり寄るメディア幹部

あえて書生論を記したのは、この日の各紙朝刊一面トップ記事が「環太平洋連携協定(TPP)の参加に向けた米国との事前協議で合意」だったからだ。TPPについては前回も触れたが、全国紙は推進で筆を揃え、地方紙は慎重論が圧倒的。北海道や東北、九州などでは多くが社説で反対を唱えた。TPPが地方の衰退をもたらしかねない以上、それは当然の選択と言える。ならば、全国紙にとっての「現場」はどこなのか。

共産党の「しんぶん赤旗」が11日の一面で「これでいいのか大手メディア―首相と会食とまらない」と大見出しをつけ、安倍首相が在京の新聞・テレビ各社の社長や政治部長らを順に招き、2時間以上にわたる会食を重ねている、と報じた。門奈直樹・元立教大教授は「権力を監視するのがメディアの本旨、とする欧米では考えられない」という。

画一的な「国益」報道がこうした会食の所産であるとすれば、現場で奮闘する記者はやりきれない。「東洋経済」ウェブ版(岡田広行記者、4月3日)は、福島原発周辺で動植物の異常が相次いでおり、放射線被曝の影響とみられるとの4人の研究者の報告を紹介した。衝撃的な内容だが、新聞記事としては見当たらない。原発事故にはなるべく触れずに、という事なかれ主義のせいではないことを祈るばかりだ。

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