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新聞の作り方106:五輪報道と福島原発事故 東電不起訴の記事 石塚直人

2020年夏季五輪の東京開催が早朝に決まった9月8日は、新聞の休刊日だった。全国紙朝刊の一面見出しは「開催都市きょう決定」。夕刊講読家庭向けにあえて840万部の特別紙面を発行した読売以外は、主要駅周辺で号外を配るしかなく、まともに結果を報じたのは9日の夕刊で、テレビやネットの速報から1日半も過ぎていた。

だから10日の朝刊は、いつもなら五輪記事で満載だったろう。ただ、9日は別の大きなニュースがあった。東京地検が福島第一原発事故に絡み、住民から告訴・告発されていた東京電力の前会長ら42人を不起訴にしたことだ。国際オリンピック委員会総会での安倍首相の断言「福島原発の汚染水は完全にブロックされている」の当否も問われた。

「42人不起訴」を最も大きく扱ったのは朝日だ。第一社会面の大半を使い、告訴団と地検の記者会見のほか、被災者の怒りの声も詳報した。記者による解説では、汚染水問題にも触れて「納得しがたい」と指摘、東電と国の責任を問い続ける世論づくりを求めた。

同じ紙面では、お世辞にも進歩的とは言えない評論家・田原総一朗氏でさえ「家宅捜索もなしでは、捜査を尽くしたとは言い難い」と述べている。これが社会の常識というものだろう。「不起訴はやむを得ない」とする弁護士のコメントも「現行の刑法は明治期に作られ、過失犯の処罰は個人が起こす極めて単純な事故を対象にしている。法人を処罰できる新しい仕組みが必要」としており、それなりに納得できる。

原発推進を社論とする読売や産経が、双方の主張の骨子を紹介する以外、目立った論評もしていないのとは格段の差がある。それでも新聞記事である以上、スペースの限界などから十分に書けないことも多い。

五輪報道の狭間を狙ったタイミング

福島地検に出した告訴状が東京地検に移管されたことに告訴団が抗議し、弁護団長が「福島県の検察審査会に申し立てができなくなる」と批判した、との一節が気になり、「福島原発事故緊急会議」のホームページで、弁護団による抗議声明を読んだ。それによると、検察庁も8月26日まで、福島地検での処理を約束していたという。

弁護団は「もし不起訴処分に自信があるなら、福島の検察審査会の場でこそ、その理由を説明すべきだった」とし、五輪報道の狭間を狙ったとしか言えない発表のタイミング、甲状腺異常の因果関係の解明を怠ったずさんな捜査内容と合わせて批判している。

朝日はこの日、大阪市の平和博物館「ピースおおさか」の改装で「旧日本軍の展示が大幅に縮小される」との4段記事も載せ、「戦争責任をあやふやにしかねない」と危惧する識者の談話をつけた。8月に問題化した松江市立図書館の「はだしのゲン」締め出しの時もそうだったが、歴史に対する権力の不当な干渉を監視するメディアの取り組みは貴重だ。

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