新聞の作り方107:財界の顔色うかがう大新聞 石塚直人
「ヘイトスピーチに有罪」扱い小さかった産経
京都の朝鮮学校周辺で「在日特権を許さない市民の会」(在特会)が繰り広げたヘイトスピーチに対し、京都地裁は「人種差別撤廃条約に違反する」と認定、1200万円の賠償と新たな街宣活動の禁止を命じた(10月7日)。この1か月で最もうれしかったニュースだ。
在日韓国・朝鮮人は日本で厳しい差別にさらされてきた。その彼らに向かって「出て行け」「殺せ」などと集団で罵声を浴びせることは、人間として許されない。ただ、日本政府は表現の自由との兼ね合いなどを理由に、国連が求める規制法の制定を保留したままだ。判決は、国の意向よりも人道と正義を尊重した、画期的なものとなった。
全国紙の大阪本社紙面では、朝毎読の3紙が一面トップにし、社会面でも関連記事を大きく入れた。朝鮮学校に通う子どもの親や、原告同様ヘイトスピーチに苦しめられている鶴橋・コリアタウン住民の声も集め、それぞれ「これを契機に、民族差別を何とかしないと」という記者の意気込みを感じさせた。
この日は私もスタッフの一員として続けている、在日女性向けの識字教室の授業があった。難しい漢字語が続出するのを懸念しつつ、ある社の社会面を教材にし、担当の生徒さんと喜び合った。産経だけは第2社会面に3段見出しの小さな扱い。偏狭なナショナリズムに凝り固まったその姿勢は、無残としか言いようがない。
大企業の内部留保への課税が「暴論」!?
大阪を舞台とする選挙で「維新」の連戦連勝に終止符を打った堺市長選(9月29日)も、快挙と言える。その数日前には、卒業式などで教員が「君が代」をきちんと歌っているかどうか、校長や教頭が口元をチェックするよう指示する府教育長の通知が出されていたことが判明した。こんな暴挙をいつまで許しておくのか。
ニュースでなく記事で忘れられないのは、9月26日の朝日朝刊で経済社説担当の論説委員が書いた「内部留保への課税を考える」(社説面)だ。日本だけが先進諸国の例に逆行して賃金が下がり続けていることを指摘し、大企業が溜め込んだ220兆円について「企業のトップを呼んで、なぜ使わないのか、いつ使うのか、徹底討論してはどうか」とまとめた。正論だが、書き出しが気にいらない。「暴論であることはわかっている」。
筆者が本気でそう思っているのか、偽装なのかはわからない。ただ、財界の顔色をうかがいながらでしか社説を書けない大新聞の現状を、これほどはっきり示した一言も珍しい。「税金は金持ちから取れ」(武田知弘著)を引くまでもなく、資産家と大企業への優遇税制を35年前に戻すだけで、或いは資産の1%を富裕税として徴収するだけで消費税は不要になる。そのことを一切書かずにいるのは、読者への裏切りだと思うのだが。
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