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新聞の作り方108:特定秘密保護法案権力のウソを隠蔽する法律 石塚直人

特定秘密保護法案の国会審議が重大局面を迎えている。「成立すれば戦前戦中のような暗黒社会に戻りかねない」と多くの新聞は反対の論調を明確にしているが、与党(自民・公明)は「みんなの党」を取り込み、衆院での修正可決をほぼ確実にした(月日)。7日に衆院本会議で審議入りして以来、わずか2週間足らずの急展開だ。

法案の問題点は、各紙が一貫して指摘している。何が秘密であるのかがはっきりせず、情報公開の手段が担保されていない。秘密を漏らした公務員らを最長年の懲役という厳罰に処す以上、内部告発などの可能性はしぼまざるを得ない。「通常の取材行為は処罰対象に当たらない」という政府答弁など、絵に描いた餅でしかないことは、国旗国歌法の成立時を考えればすぐわかる。

全国紙では朝日、毎日が連日多くの紙面を割いて反対の論陣を張った。朝日は8日朝刊一面に論説主幹の署名入りで「廃案にするべきだ」と書き、社会面では戦前の軍機保護法により非業の死を遂げた青年の遺族らの証言とともに「当時の政府高官も『危険な運用はしない』と答弁していたが、実際には全く違った」との解説を添えた。沖縄密約報道で記者生命を奪われた西山太吉さんら、国家権力の犠牲となった人たちが何人も各紙に登場し、法案に警鐘を鳴らした。

日米同盟を重要視する読売・産経

一方、社会面に何も書かないことで目立ったのが読売、産経。国会内でのやり取りをそのまま文字にするだけで、他紙が連日のように報じる反対集会もほとんど無視した。この2紙しか読まない読者は、法案について他紙の読者とは全く別の印象を持つだろう。「成り行きに任せておけばいい」「それほど神経質になる必要はない」。両紙が読者に対して発する暗黙のメッセージは、要するにそういうことだ。

両紙とも、報道の自由や国民の「知る権利」の重要性は指摘している。ただ、最大のポイントは、日米同盟がそれにも増して重要だと考えているらしい点である。同盟には機密保護が欠かせない。他紙のように「知る権利」ばかり追求して、対米関係に亀裂が生じては元も子もない、という判断が透けて見える。

「もう戦争はしない」と誓った戦後日本の原点を顧みるとき、国民の基本的人権より軍事上の配慮を優先するような倒錯は、とても許されないと私は思う。とくに公称1000万部を誇る読売の影響力は他を圧倒する。もっと権力に対して懐疑的であるべきだ。

この法案が審議入りする直前まで、各紙の社会面では高級ホテルやレストランの食品偽装が大きく扱われていた。高級品と偽って安物を提供した会社のトップは、非難されて当然だろう。しかし、国民に対して国家権力への武装解除を促すような言論の罪は、食材偽装の比ではない。贅沢さが売り物の食品は食べなければいいが、権力のウソを隠蔽する法律は将来にわたって国民を苦しめるのだから。

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